馬太傳福音書(マタイによる福音書(明治元訳新約聖書(1904年版)))

2018年11月23日

馬太傳福音書(マタイによる福音書(明治元訳新約聖書(1904年版))

第一章

  1. アブラハムの裔(こ)なるダビデの裔(こ)イエス・キリストの系圖(けいづ)
  2. アブラハム、イサクを生(うみ)イサク、ヤコブを生(うみ)ヤコブ、ユダとその兄弟(きやうだい)を生(うめ)り
  3. ユダ、タマルに由(より)てパレスとザラとを生(うみ)パレス、エスロンを生(うみ)エスロン、アラムを生(うみ)
  4. アラム、アミナダブを生(うみ)アミナダブ、ナアソンを生(うみ)ナアソン、サルモンを生(うみ)
  5. サルモン、ラハブに由(より)てボアズを生(うみ)ボアズ、ルツに由(より)てオベデを生(うみ)オベデ、エツサイを生(うみ)
  6. エツサイ、ダビデ王(わう)を生(うみ)ダビデ王(わう)ウリヤの妻(つま)に由(より)てソロモンを生(うみ)
  7. ソロモン、レハベアムを生(うみ)レハベアム、アビアを生(うみ)アビア、アサを生(うみ)
  8. アサ、ヨサパテを生(うみ)ヨサパテ、ヨラムを生(うみ)ヨラム、ウツズヤを生(うみ)
  9. ウツズヤ、ヨタムを生(うみ)ヨタム、アカズを生(うみ)アカズ、ヘゼキヤを生(うみ)
  10. ヘゼキヤ、マナセを生(うみ)マナセ、アモンを生(うみ)アモン、ヨシアを生(うめ)り
  11. バビロンに徙(うつ)さるる時(とき)ヨシア、エホヤキンと其(その)兄弟(きやうだい)を生(うみ)
  12. バビロンに徙(うつ)されたる後(のち)エホヤキン、シアテルを生(うみ)シアテル、ゼルバベルを生(うみ)
  13. ゼルバベル、アビウデを生(うみ)アビウデ、エリアキンを生(うみ)エリアキン、アゾルを生(うみ)
  14. アゾル、ザドクを生(うみ)ザドク、アキムを生(うみ)アキム、エリウデを生(うみ)
  15. エリウデ、エリアザルを生(うみ)エリアザル、マツタンを生(うみ)マツタン、ヤコブを生(うみ)
  16. ヤコブ、マリアの夫(をつと)ヨセフを生(うめ)り此(この)マリアよりキリストと稱(となふ)るイエス生(うま)れ給(たま)ひき
  17. 其(その)世系(よつぎ)を數(かぞふ)ればアブラハムよりダビデに至(いた)るまで十四代(じふよだい)ダビデよりバビロンに徙(うつ)さるる時(とき)まで十四代(じふよだい)バビロンに徙(うつ)されしよりキリストまで十四代(じふよだい)なり
  18. それイエス・キリストの生(うま)れ給(たまへ)ること左(さ)の如(ごと)し其(その)母(はは)マリアはヨセフと聘定(いひなづけ)を爲(なせ)るのみにて未(いま)だ偕(とも)にならざりしとき聖(せい)靈(れい)に感(かん)じて孕(はらみ)しが其(その)孕(はらみ)たること顯(あらは)れければ
  19. 夫(をつと)ヨセフ義(ただしき)人(ひと)なる故(ゆゑ)に之(これ)を辱(はづか)しむることを願(このま)ず密(ひそか)に離緣(りえん)せんと思(おも)へり
  20. 斯(かく)て此(この)事(こと)を思(おもひ)念(めぐら)せる時(をり)に主(しゆ)の使者(つかひ)かれが夢(ゆめ)に現(あらは)れて曰(いひ)けるはダビデの裔(こ)ヨセフよ爾(なんぢ)妻(つま)マリアを娶(めとる)ことを懼(おそ)るる勿(なかれ)その孕(はらめ)る所(ところ)の者(もの)は聖(せい)靈(れい)に由(よる)なり
  21. かれ子(こ)を生(うま)ん其(その)名(な)をイエスと名(なづ)くべし蓋(そは)その民(たみ)を罪(つみ)より救(すく)はんとすれば也(なり)
  22. 凡(すべ)て此(この)事(こと)は預言者(よげんしや)に託(より)て主(しゆ)の曰(いひ)たまひし言(ことば)に
  23. 處女(をとめ)はらみて子(こ)を生(うま)ん其(その)名(な)をインマヌエルと稱(となふ)べしと有(ある)に應(かなは)せん爲(ため)なり其(その)名(な)を譯(とけ)ば神(かみ)われらと偕(とも)に在(をる)との義(こころ)なり
  24. ヨセフ寢(ねむり)より起(おき)て主(しゆ)の使者(つかひ)の命(めい)ぜし言(こと)に遵(したが)ひ其(その)妻(つま)を娶(めとり)たれど
  25. 冢子(うひご)の生(うま)るるまで牀(とこ)を同(とも)にせざりき其(その)生(うま)れし子(こ)をイエスと名(なづ)けたり

第二章

  1. 夫(それ)イエスはヘロデ王(わう)の時(とき)ユダヤのベテレヘムに生(うま)れ給(たまひ)しが其(その)とき博士(はかせ)たち東(ひがし)の方(かた)よりエルサレムに來(きた)り
  2. 曰(いひ)けるはユダヤ人(びと)の王(わう)とて生(うま)れ給(たまへ)る者(もの)は何處(いづこ)に在(いま)す乎(や)われら東(ひがし)の方(かた)にて其(その)星(ほし)を見(み)たれば彼(かれ)を拜(はい)せん爲(ため)に來(きた)れり
  3.  ヘロデ王(わう)これを聞(きき)て痛(いた)む又(また)エルサレムの民(たみ)もみな然(しか)り
  4.  凡(すべて)の祭司(さいし)の長(をさ)と民(たみ)の學者(がくしや)とを集(あつめ)てヘロデ問(とひ)けるはキリストの生(うま)るべき處(ところ)は何所(いづこ)なる乎(や)
  5.  答(こたへ)けるはユダヤのベテレヘムなり蓋(そは)預言者(よげんしや)の錄(しる)されたる言(ことば)に
  6.  ユダヤの地(ち)ベテレヘムよ爾(なんぢ)はユダヤの郡中(ぐんちう)にて至(いと)小(ちひさ)きものに非(あら)ず我(わが)イスラエルの民(たみ)を牧(やしな)ふべき君(きみ)その中(うち)より出(いで)んと云(いへ)ばなり
  7.  是(ここ)に於(おい)てヘロデ密(ひそか)に博士(はかせ)等(たち)を召(よび)星(ほし)の現(あらは)れし時(とき)を詳(こまか)に問(とひ)て
  8.  彼等(かれら)をベテレヘムに遣(つかは)さんとして曰(いひ)けるは往(ゆき)て嬰兒(をさなご)の事(こと)を細(つぶさ)に尋(たづね)これに遇(あは)ば我(われ)に告(つげ)よ我(われ)も亦(また)ゆきて拜(はい)すべし
  9.  かれら王(わう)の命(おほせ)を聞(きき)て往(ゆけ)り前(さき)に東(ひがし)の方(かた)にて見(み)たりし星(ほし)かれらに先(さきだ)ちて嬰兒(をさなご)の居(をる)所(ところ)にいたり其(その)上(うへ)に止(とどま)りぬ
  10.  彼等(かれら)この星(ほし)を見(み)て甚(いた)く喜(よろこ)び
  11.  既(すで)に室(いへ)に入(いり)ければ嬰兒(をさなご)の其(その)母(はは)マリアと偕(とも)に居(をる)を見(み)ひれふして嬰兒(をさなご)を拜(はい)し寶(たから)の盒(はこ)を開(ひらき)て黄金(わうごん)、乳香(にうかう)、沒藥(もつやく)など禮物(れいもつ)を獻(ささげ)たり
  12.  博士(はかせ)夢(ゆめ)にヘロデへ返(かへ)る勿(なかれ)との默示(つげ)を蒙(かうむ)りて他(ほか)の途(みち)より其(その)國(くに)に歸(かへ)れり
  13.  彼等(かれら)が去(され)るのち主(しゆ)の使者(つかひ)ヨセフの夢(ゆめ)に現(あらは)れて曰(いひ)けるはヘロデ嬰兒(をさなご)を索(もとめ)て殺(ころさ)んとする故(ゆゑ)に起(おき)て嬰兒(をさなご)と其(その)母(はは)とを挈(たづさ)へエジプトに逃(のがれ)て復(また)わが爾(なんぢ)に示(しめ)さん時(とき)まで彼處(かしこ)に止(とどま)れ
  14.  ヨセフ起(おき)て夜(よる)嬰兒(をさなご)と其(その)母(はは)とを挈(たづさ)へエジプトに往(ゆき)
  15.  ヘロデの死(しぬ)るまで其所(そこ)に止(とどま)れり是(これ)主(しゆ)預言者(よげんしや)に託(より)て我(われ)わが子(こ)をエジプトより召(よび)出(いだ)せりと云(いひ)給(たま)ひしに應(かなは)せん爲(ため)なり
  16.  是(ここ)に於(おい)てヘロデ博士(はかせ)に欺(あざむ)かれたるをしり大(おほい)にいかり人(ひと)を遣(つかは)して博士(はかせ)に詳(くはし)く問(とひ)たる時(とき)を度(はか)りベテレヘムと其(その)境(さかひ)の内(うち)なる二(に)歳(さい)以下(した)の嬰兒(をさなご)を盡(ことごと)く殺(ころ)せり
  17.  即(すなは)ち預言者(よげんしや)ヱレミヤの言(ことば)に
  18.  歎(なげ)き悲(かなし)み甚(いた)く憂(うれふ)る聲(こゑ)ラマに聞(きこ)ゆラケル其(その)兒子(こども)を歎(なげ)き其(その)兒子(こども)の無(なき)によりて慰(なぐさめ)を得(え)ずと云(いひ)しに應(かな)へり
  19.  斯(かく)てヘロデ死(しに)しかば主(しゆ)の使者(つかひ)ヨセフの夢(ゆめ)にエジプトにて現(あらは)れ曰(いひ)けるは
  20.  起(おき)て嬰兒(をさなご)とその母(はは)とを挈(たづさ)へイスラエルの地(ち)にゆけ嬰兒(をさなご)の生命(いのち)を索(もとむ)る者(もの)は已(すで)に死(しね)り
  21.  彼(かれ)おきて嬰兒(をさなご)と其(その)母(はは)とを挈(たづさ)へてイスラエルの地(ち)に至(いたり)しが
  22.  アケラヲ父(ちち)ヘロデに代(かはり)てユダヤの王(わう)たりと聞(きき)ければ彼處(かしこ)に往(ゆく)ことを懼(おそ)る又(また)夢(ゆめ)に告(つげ)を蒙(かうむ)りてガリラヤの内(うち)に避(さけ)
  23.  ナザレと云(いへ)る邑(むら)に至(いた)りて居(をれ)り彼(かれ)はナザレ人(びと)と稱(よば)れんと預言者(よげんしや)に託(より)て云(いは)れたる言(ことば)に應(かなは)せん爲(ため)なり

第三章

  1.  當時(そのころ)バプテスマのヨハネ來(きた)りてユダヤの野(の)に宣(のべ)傳(つた)へて
  2.  曰(いひ)けるは天國(てんこく)は近(ちかづ)けり悔(くい)改(あらた)めよ
  3.  是(こ)は主(しゆ)の道(みち)を備(そなへ)その路線(みちすぢ)を直(なほく)せよと野(の)に呼(よべ)る人(ひと)の聲(こゑ)ありと預言者(よげんしや)イザヤが言(いひ)し人(ひと)なり
  4.  此(この)ヨハネは身(み)に駱駝(らくだ)の毛衣(けごろも)をき腰(こし)に皮(かは)の帶(おび)をつかね蝗蟲(いなご)と野蜜(のみつ)を食物(しよくもつ)とせり
  5.  斯(この)時(とき)エルサレム及(およ)びユダヤを擧(こぞり)またヨルダンの四方(しはう)より人々(ひとびと)出(いで)てヨハネに就(つき)
  6.  己(おの)が罪(つみ)を悔(くい)あらはしヨルダンにて彼(かれ)よりバプテスマを授(さづけ)られたり
  7. バプテスマを受(うけ)んとてパリサイ及(および)サドカイの人々(ひとびと)の多(おほ)く來(きた)れるを見(み)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは蝮(まむし)の裔(すゑ)よ誰(たが)なんぢらに來(きたら)んとする怒(いかり)を避(さく)べきことを告(つげ)しや
  8.  然(され)ば悔(くい)改(あらため)に符(かな)ふ果(み)を結(むす)べよ
  9.  爾曹(なんぢら)われらが先祖(せんぞ)にアブラハム有(あり)と云(いふ)ことを意(おも)ふ勿(なか)れ我(われ)爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん神(かみ)は能(よく)この石(いし)をもアブラハムの子(こ)と爲(なら)しめ給(たま)ふなり
  10.  今(いま)や斧(をの)を樹(き)の根(ね)に置(おか)る故(ゆゑ)に凡(すべ)て善(よき)果(み)を結(むすば)ざる樹(き)は斫(きら)れて火(ひ)に投(なげ)入(いれ)らるべし
  11. 我(われ)は爾曹(なんぢら)を悔(くい)改(あらため)させんとて水(みづ)を以(も)て爾曹(なんぢら)にバプテスマを授(さづ)く我(われ)より後(のち)に來(くる)者(もの)は我(われ)に勝(まさり)て能力(ちから)あり我(われ)は其(その)履(くつ)を提(とる)にも足(たら)ず彼(かれ)は聖靈(せいれい)と火(ひ)をもて爾曹(なんぢら)にバプテスマを授(さづけ)ん
  12.  手(て)には箕(み)を持(もち)て其(その)禾場(うちば)を淨(きよ)め麥(むぎ)は斂(あつめ)て其(その)倉(くら)にいれ糠(から)は熄(きえ)ざる火(ひ)にて燬(やく)べし
  13.  斯(この)時(とき)イエス、ヨハネにバプテスマを受(うけ)んとてガリラヤよりヨルダンに來(きた)り給(たま)ふ
  14.  ヨハネ辭(いなみ)て曰(いひ)けるは我(われ)は爾(なんぢ)よりバプテスマを受(うく)べき者(もの)なるに爾(なんぢ)反(かへつ)て我(われ)に來(きた)る乎(か)
  15.  イエス答(こたへ)けるは暫(しばら)く許(ゆる)せ如此(かく)凡(すべ)ての義(ただし)き事(こと)は我儕(われら)盡(つく)す可(べき)なり是(ここ)に於(おい)てヨハネ彼(かれ)に許(ゆる)せり
  16.  イエス、バプテスマを受(うけ)て水(みづ)より上(あが)れるとき天(てん)忽(たちま)ち之(これ)が爲(ため)にひらけ神(かみ)の靈(みたま)の鴿(はと)の如(ごと)く降(くだり)て其(その)上(うへ)に來(きた)るを見(み)る
  17.  又(また)天(てん)より聲(こゑ)ありて此(こ)は我(わが)心(こころ)に適(かなふ)わが愛子(あいし)なりと云(いへ)り

第四章

  1.  偖(さて)イエス聖靈(せいれい)に導(みちび)かれ惡魔(あくま)に試(こころみ)られん爲(ため)に野(の)に往(ゆけ)り
  2.  四(し)十(じふ)日(にち)四(し)十(じふ)夜(や)食(くら)ふ事(こと)をせず後(のち)うゑたり
  3.  試(こころ)むる者(もの)かれに來(きた)りて曰(いひ)けるは爾(なんぢ)もし神(かみ)の子(こ)ならば命(めい)じて此(この)石(いし)をパンと爲(せ)よ
  4.  イエス答(こたへ)けるは人(ひと)はパンのみにて生(いく)るものに非(あら)ず唯(ただ)神(かみ)の口(くち)より出(いづ)る凡(すべて)の言(ことば)に因(よる)と録(しる)されたり
  5.  是(ここ)に於(おい)て惡魔(あくま)かれを聖(きよき)京(みやこ)に携(たづさ)へゆき殿(みや)の頂上(いただき)に立(たた)せて曰(いひ)けるは
  6.  爾(なんぢ)もし神(かみ)の子(こ)ならば己(おの)が身(み)を下(した)へ投(なげ)よ蓋(そは)なんぢが爲(ため)に神(かみ)その使(つかひ)等(たち)に命(めい)ぜん彼等(かれら)手(て)にて支(ささ)へ爾(なんぢ)が足(あし)の石(いし)に觸(ふれ)ざるやうすべしと録(しる)されたり
  7.  イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは主(しゆ)たる爾(なんぢ)の神(かみ)を試(こころ)むべからずと亦(また)録(しる)せり
  8.  惡魔(あくま)また彼(かれ)を最(いと)高(たか)き山(やま)に携(たづさ)へゆき世界(せかい)の諸國(くにぐに)とその榮華(えいぐわ)とを見(み)せて
  9.  爾(なんぢ)もし俯(ひれ)伏(ふし)て我(われ)を拜(はい)せば此等(これら)を悉(みな)なんぢに與(あた)ふべしと曰(いふ)
  10.  イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるはサタンよ退(しりぞ)け主(しゆ)たる爾(なんぢ)の神(かみ)を拜(はい)し惟(ただ)之(これ)にのみ事(つか)ふべしと録(しる)されたり
  11.  終(つひ)に惡魔(あくま)かれを離(はな)れ天使(てんのつかひ)たち來(きた)り事(つか)ふ
  12.  イエス、ヨハネの囚(とらは)れし事(こと)を聞(きき)てガリラヤに往(ゆき)
  13.  ナザレを去(さり)ゼブルンとナフタリの界(さかひ)なる海邊(うみべ)のカペナウンに至(いたり)て此(ここ)に居(をれ)り
  14.  これ預言者(よげんしや)イザヤの言(ことば)に
  15.  ゼブルンの地(ち)、ナフタリの地(ち)海(うみ)に沿(そひ)たる地(ち)ヨルダンの外(むかふ)の地(ち)異邦人(いはうじん)のガリラヤ
  16.  此等(これら)の幽暗(くらき)にをる民(たみ)は大(おほい)なる光(ひかり)をみ死(しの)地(ち)と死(しの)蔭(かげ)に坐(ざ)する者(もの)の上(うへ)に光(ひかり)いでたりと云(いひ)しに應(かなは)せん爲(ため)なり
  17.  斯(この)時(とき)よりイエス始(はじめ)て道(みち)を宣(のべ)傳(つた)へ天國(てんこく)は近(ちかづ)けり悔(くい)改(あらた)めよと曰(いひ)たまへり
  18.  イエス、ガリラヤの海邊(うみべ)を歩(あゆみ)て、ペテロと云(いふ)シモンその兄弟(きやうだい)アンデレと二人(ふたり)にて海(うみ)に網(あみ)うてるを見(み)たり彼等(かれら)は漁者(すなどりびと)なり
  19.  之(これ)に曰(いひ)けるは我(われ)に從(したが)へ我(われ)爾曹(なんぢら)を人(ひと)を漁(すなど)る者(もの)と爲(なさ)ん
  20.  彼等(かれら)やがて網(あみ)を棄(すて)てイエスに從(したが)ふ
  21.  此(ここ)より進(すすみ)けるに又(また)他(ほか)の兄弟(きやうだい)二人(ふたり)即(すなは)ちゼベダイの子(こ)ヤコブと其(その)兄弟(きやうだい)ヨハネ父(ちち)ゼベダイと偕(とも)に舟(ふね)にて網(あみ)を補(つくろ)へるを見(み)て之(これ)を召(よび)しに
  22.  彼等(かれら)も頓(やが)て舟(ふね)と父(ちち)とを置(おき)てイエスに從(したが)へり
  23.  イエス、ガリラヤを徧(あまね)く巡(めぐ)り其(その)會堂(くわいだう)にて教(をしへ)をなし天國(てんこく)の福音(ふくいん)を宣(のべ)傳(つたへ)かつ民(たみ)の中(うち)なる諸(もろもろ)の病(やまひ)もろもろの疾(わづらひ)を醫(いや)しぬ
  24.  其(その)聲名(きこえ)あまねくスリヤに播(ひろが)りしかば人々(ひとびと)すべての患(わづら)へる者(もの)萬殊(さまざま)の病(やまひ)また痛(いたみ)惱(なや)める者(もの)あるひは鬼(おに)に憑(つかれ)たるもの癲癇(てんかん)、癱瘋(ちゆうぶ)の病(やまひ)に罹(かか)れる者(もの)を彼(かれ)に携(つれ)來(きたり)ければ之(これ)を醫(いや)せり
  25.  ガリラヤとデカポリス、エルサレム、ユダヤ、ヨルダンの外(むかふ)より多(おほく)の人々(ひとびと)きたり從(したが)ふ

第五章

  1.  イエス許多(おほく)の人(ひと)を見(み)て山(やま)に登(のぼ)り坐(ざ)し給(たまひ)ければ弟子(でし)等(たち)も其(その)下(もと)に來(きた)れり
  2.  イエス口(くち)を啓(ひらき)て彼等(かれら)に教(をし)へ曰(いひ)けるは
  3. 心(こころ)の貧(まづ)しき者(もの)は福(さいはひ)なり天國(てんこく)は即(すなは)ち其(その)人(ひと)の有(もの)なれば也(なり)
  4.  哀(かなし)む者(もの)は福(さいはひ)なり其(その)人(ひと)は安慰(なぐさめ)を得(う)べければ也(なり)
  5. 柔和(にうわ)なる者(もの)は福(さいはひ)なり其(その)人(ひと)は地(ち)を嗣(つぐ)ことを得(う)べければ也(なり)
  6.  餓(うゑ)渇(かわく)ごとく義(ぎ)を慕(したふ)者(もの)は福(さいはひ)なり其(その)人(ひと)は飽(あく)ことを得(う)べければ也(なり)
  7.  矜恤(あはれみ)ある者(もの)は福(さいはひ)なり其(その)人(ひと)は矜恤(あはれみ)を得(う)べければ也(なり)
  8.  心(こころ)の清(きよ)き者(もの)は福(さいはひ)なり其(その)人(ひと)は神(かみ)を見(みる)ことを得(う)べければ也(なり)
  9.  和平(やはらぎ)を求(もとむ)る者(もの)は福(さいはひ)なり其(その)人(ひと)は神(かみ)の子(こ)と稱(となへ)らる可(べけ)ればなり
  10.  義(ただしき)ことの爲(ため)に責(せめ)らるる者(もの)は福(さいはひ)なり天國(てんこく)は即(すなは)ち其(その)人(ひと)の有(もの)なれば也(なり)
  11.  我(わが)ために人(ひと)なんぢらを詬誶(ののしり)また迫害(せめ)いつはりて各樣(さまざま)の惡(あしき)言(こと)をいはん其(その)時(とき)は爾曹(なんぢら)福(さいはひ)なり
  12. 喜(よろこ)び樂(たのし)め天(てん)に於(おい)て爾曹(なんぢら)の報賞(むくい)おほければ也(なり)そは爾曹(なんぢら)より前(さき)の預言者(よげんしや)をも如此(かく)せめたりき
  13.  爾曹(なんぢら)は地(ち)の鹽(しほ)なり鹽(しほ)もし其(その)味(あぢ)を失(うしな)はば何(なに)を以(もて)か故(もと)の味(あぢ)に復(かへ)さん後(のち)は用(よう)なし外(そと)に棄(すて)られて人(ひと)に踐(ふま)るる而已(のみ)
  14.  爾曹(なんぢら)は世(よ)の光(ひかり)なり山(やま)の上(うへ)に建(たて)られたる城(しろ)は隱(かくる)ることを得(え)ず
  15. 燈(ともしび)を燃(とも)して斗(ます)の下(した)におく者(もの)なし燭臺(しよくだい)に置(おき)て家(いへ)に在(ある)すべての物(もの)を照(てら)さん
  16.  此(かく)の如(ごと)く人々(ひとびと)の前(まへ)に爾曹(なんぢら)の光(ひかり)を耀(かがや)かせ然(さ)れば人々(ひとびと)なんぢらの善(よき)行(おこなひ)を見(み)て天(てん)に在(いま)す爾曹(なんぢら)の父(ちち)を榮(あが)むべし
  17.  われ律法(おきて)と預言者(よげんしや)を廢(すつ)る爲(ため)に來(きた)れりと意(おも)ふ勿(なかれ)われ來(きたり)て之(これ)を廢(すつ)るに非(あら)ず成就(じやうじゆ)せん爲(ため)なり
  18.  われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん天地(てんち)の盡(つき)ざる中(うち)に律法(おきて)の一點(いつてん)一畫(いつくわく)も遂(とげ)つくさずして廢(すた)ることなし
  19.  是(この)故(ゆゑ)に人(ひと)もし誡(いましめ)の至(いと)微(ちひさ)き一(ひとつ)を壞(やぶ)り又(また)その如(ごと)く人(ひと)に教(をしへ)なば天國(てんこく)に於(おい)て至(いと)微(ちひさ)き者(もの)と謂(いは)れん凡(おほよ)そ之(これ)を行(おこな)ひ且(かつ)人(ひと)に教(をしふ)る者(もの)は天國(てんこく)に於(おい)て大(おほい)なる者(もの)と謂(いは)るべし
  20.  我(われ)なんぢらに告(つげ)ん學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)の義(ただしき)よりも爾曹(なんぢら)の義(ただしき)こと勝(すぐれ)ずば必(かなら)ず天國(てんこく)に入(いる)こと能(あたは)じ
  21.  古(いにしへ)への人(ひと)に告(つげ)て殺(ころす)こと勿(なか)れ殺(ころ)す者(もの)は審判(さばき)に干(あづか)らんと言(いへ)ること有(ある)は爾曹(なんぢら)が聞(きき)し所(ところ)なり
  22.  然(され)ど我(われ)なんぢらに告(つげ)ん凡(すべ)て故(ゆゑ)なくして其(その)兄弟(きやうだい)を怒(いか)る者(もの)は審判(さばき)に干(あづか)らん又(また)その兄弟(きやうだい)を愚者(おろかもの)よといふ者(もの)は集議(しふぎ)に干(あづか)らん又(また)狂妄(しれもの)よといふ者(もの)は地獄(ぢごく)の火(ひ)に干(あづか)るべし
  23.  是(こ)の故(ゆゑ)に爾(なんぢ)もし禮物(そなへもの)を携(たづさ)へて壇(だん)に往(ゆき)たる時(とき)かしこにて兄弟(きやうだい)に恨(うらま)るることあるを憶(おもひ)起(いだ)さば
  24.  その供物(そなへもの)を壇(だん)の前(まへ)に留(おき)まづ往(ゆき)て爾(なんぢ)の兄弟(きやうだい)と和(やはら)ぎ後(のち)きたりて爾(なんぢ)の禮物(そなへもの)を獻(ささげ)よ
  25.  爾(なんぢ)を訴(うつた)ふる者(もの)と偕(とも)に途間(みち)にある時(とき)はやく和(やはら)げよ恐(おそら)くは訴(うつた)ふる者(もの)なんぢを審官(しらべやく)に付(わた)し審官(しらべやく)また爾(なんぢ)を下吏(したやく)に付(わた)し遂(つひ)に爾(なんぢ)は獄(ひとや)に入(いれ)られん
  26.  我(われ)まことに爾(なんぢ)に告(つげ)ん分釐(ぶんり)までも償(つくの)はざれば必(かなら)ず其所(そこ)を出(いづ)ること能(あたは)ざる也
  27.  古(いにしへ)の人(ひと)に告(つげ)て姦淫(かんいん)すること勿(なかれ)と言(いへ)ることあるは爾曹(なんぢら)が聞(きき)し所(ところ)なり
  28.  然(され)ど我(われ)なんぢらに告(つげ)ん凡(おほよ)そ婦(をんな)を見(み)て色情(しきじやう)を起(おこ)す者(もの)は中心(こころのうち)すでに姦淫(かんいん)したる也(なり)
  29.  もし右(みぎ)の眼(め)なんぢを罪(つみ)に陷(おと)さば抉(ぬき)出(いだ)して之(これ)を棄(すて)よ蓋(そは)五體(ごたい)の一(ひとつ)を失(うしな)ふは全身(ぜんしん)を地獄(ぢごく)に投(なげ)入(いれ)らるるよりは勝(まさ)れり
  30. もし右(みぎ)の手(て)なんぢを罪(つみ)に陷(おと)さば之(これ)を斷(きり)て棄(すて)よ蓋(そは)五體(ごたい)の一(ひとつ)を失(うしな)ふは全身(ぜんしん)を地獄(ぢごく)に投入(なげいれ)らるるよりは勝(まさ)れり
  31.  また曰(いへ)ることあり凡(おほよ)そ人(ひと)その妻(つま)を出(いだ)さんとせば之(これ)に離縁状(りえんじやう)を與(あた)ふべしと
  32.  然(され)ど我(われ)爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん姦淫(かんいん)の故(ゆゑ)ならで其(その)妻(つま)を出(いだ)す者(もの)は之(これ)に姦淫(かんいん)なさしむる也(なり)又(また)出(いだ)されたる婦(をんな)を娶(めと)る者(もの)も姦淫(かんいん)を行(おこな)ふなり
  33.  また古(いにしへ)の人(ひと)に告(つげ)て僞(いつはり)の誓(ちかひ)を立(たつ)ること勿(なかれ)なんぢ誓(ちか)ふ所(ところ)は必(かなら)ず主(しゆ)に遂(とぐ)べしと言(いへ)ること有(ある)は爾曹(なんぢら)が聞(きき)し所(ところ)なり
  34.  然(され)ど我(われ)汝(なんぢ)らに告(つげ)ん更(さら)に誓(ちかふ)こと勿(なか)れ天(てん)を指(さし)て誓(ちか)ふ勿(なか)れ是(これ)神(かみ)の座位(みくらゐ)なれば也(なり)
  35.  地(ち)を指(さし)て誓(ちか)ふこと勿(なかれ)これ神(かみ)の足凳(あしだい)なれば也(なり)エルサレムを指(さし)て誓(ちか)ふこと勿(なかれ)これ大王(おほきみ)の京城(みやこ)なれば也(なり)
  36.  爾(なんぢ)の首(かしら)を指(さし)て誓(ちか)ふ勿(なかれ)そは一(ひと)すぢの髮(け)だに白(しろく)し黒(くろく)すること能(あたは)ざれば也(なり)
  37.  爾曹(なんぢら)ただ是々(しかりしかり)否々(いないな)といへ此(これ)より過(すぐ)るは惡(あく)より出(いづ)るなり
  38.  目(め)にて目(め)を償(つくの)ひ齒(は)にて齒(は)を償(つくの)へと言(いへ)ること有(ある)は爾曹(なんぢら)が聞(きき)し所(ところ)なり
  39.  然(され)ど我(われ)なんぢらに告(つげ)ん惡(あく)に敵(てき)すること勿(なか)れ人(ひと)なんぢの右(みぎ)の頬(ほほ)を批(うた)ば亦(また)ほかの頬(ほほ)をも轉(めぐら)して之(これ)に向(むけ)よ
  40.  爾(なんぢ)を訟(うつたへ)て裏衣(したぎ)を取(とら)んとする者(もの)には外服(うはぎ)をも亦(また)とらせよ
  41. 人(ひと)なんぢに一里(いちり)の公役(こうえき)を強(しひ)なば之(これ)と偕(とも)に二里(にり)ゆけ
  42.  爾(なんぢ)に求(もとむ)る者(もの)には予(あた)へ借(から)んとする者(もの)を卻(しりぞ)くる勿(なか)れ
  43. 爾(なんぢ)の隣(となり)を愛(いつくし)みて其(その)敵(あだ)を憾(うらむ)べしと言(いへ)ること有(ある)は爾曹(なんぢら)が聞(きき)し所(ところ)なり
  44.  然(されど)も我(われ)なんぢらに告(つげ)ん爾曹(なんぢら)の敵(あだ)を愛(いつくし)み爾曹(なんぢら)を詛(のろ)ふ者(もの)を祝(しゆく)し爾曹(なんぢら)を憎(にく)む者(もの)を善視(よく)し虐遇(なやめ)迫害(せむる)ものの爲(ため)に祈禱(きたう)せよ
  45.  如此(かく)するは天(てん)に在(いま)す爾曹(なんぢら)の父(ちち)の子(こ)とならん爲(ため)なり夫(それ)天(てん)の父(ちち)は其(その)日(ひ)を善(よき)者(もの)にも惡(あしき)者(もの)にも照(てら)し雨(あめ)を義(ただし)き者(もの)にも義(ただし)からざる者(もの)にも降(ふら)せ給(たま)へり
  46.  爾曹(なんぢら)おのれを愛(あい)する者(もの)を愛(あい)するは何(なに)の報賞(むくい)かあらん税吏(みつぎとり)も然(しか)せざらん乎(や)
  47.  安否(あんぴ)を兄弟(きやうだい)にのみ問(とふ)は人(ひと)より何(なに)の過(すぐれ)たる事(こと)かあらん税吏(みつぎとり)も然(しか)せざらん乎(や)
  48.  是(この)故(ゆゑ)に天(てん)に在(いま)す爾曹(なんぢら)の父(ちち)の完全(まつたき)が如(ごと)く爾曹(なんぢら)も完全(まつたく)すべし

第六章

  1.  なんぢら人(ひと)に見(み)せんために其(その)義(ただしき)を人(ひと)の前(まへ)に行(なす)ことを愼(つつしめ)もし然(しから)ずば天(てん)に在(いま)す爾曹(なんぢら)の父(ちち)より報賞(むくひ)を得(え)じ
  2.  是(この)故(ゆゑ)に施濟(ほどこし)を行(なす)とき人(ひと)の榮(あがめ)を得(え)ん爲(ため)に會堂(くわいだう)や街衢(ちまた)にて僞善者(ぎぜんしや)の如(ごと)く箛(らつぱ)を己(おの)が前(まへ)に吹(ふか)しむる勿(なか)れ我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん彼等(かれら)は既(すで)にその報賞(むくい)を得(え)たり
  3.  なんぢ施濟(ほどこし)をするとき右(みぎ)の手(て)の爲(なす)ことを左(ひだり)の手(て)に知(しら)する勿(なか)れ
  4.  如此(かく)するは其(その)施濟(ほどこし)の隱(かく)れんが爲(ため)なり然(さら)ば隱(かくれ)たるに鑒(み)たまふ爾(なんぢ)の父(ちち)は明顯(あらは)に報(むくい)たまふべし
  5.  なんぢ祈(いの)る時(とき)に僞善者(ぎぜんしや)の如(ごとく)する勿(なか)れ彼等(かれら)は人(ひと)に見(み)られんが爲(ため)に會堂(くわいだう)や街衢(ちまた)の隅(すみ)に立(たち)て祈(いのる)ことを好(このむ)われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん彼等(かれら)は既(すで)にその報賞(むくい)を得(え)たり
  6.  なんぢ祈(いのる)ときは嚴密(ひそか)なる室(へや)にいり戸(と)を閉(とぢ)て隱微(かくれ)たるに在(いま)す爾(なんぢ)の父(ちち)に祈(いの)れ然(さら)ば隱微(かくれ)れたるに鑒(み)たまふ爾(なんぢ)の父(ちち)は明顯(あらは)に報(むくい)たまふべし
  7.  爾曹(なんぢら)祈(いの)る時(とき)は異邦人(いはうじん)の如(ごと)く重複(くりかへし)語(ごと)を言(いふ)なかれ彼等(かれら)は言(ことば)おほきを以(も)て聽(きか)れんと意(おも)へり
  8.  是(この)故(ゆゑ)に彼等(かれら)に效(ならふ)こと勿(なか)れ爾曹(なんぢら)の父(ちち)は求(ねがは)ざる先(さき)に其(その)需要(なくてならぬ)物(もの)を知(しり)たまへば也(なり)
  9.  然(され)ば爾曹(なんぢら)かく祈(いの)るべし天(てん)に在(まし)ます我儕(われら)の父(ちち)よ願(ねがは)くは爾名(みな)を尊崇(あがめ)させ給(たま)へ
  10.  爾國(みくに)を臨(きた)らせ給(たま)へ爾旨(みこころ)の天(てん)に成(なる)ごとく地(ち)にも成(なさ)せ給(たま)へ
  11.  我儕(われら)の日用(にちよう)の糧(かて)を今日(けふ)も與(あたへ)たまへ
  12.  我儕(われら)に負債(おひめ)ある者(もの)を我儕(われら)がゆるす如(ごと)く我儕(われら)の負債(おひめ)をも免(ゆる)し給(たま)へ
  13.  我儕(われら)らを試探(こころみ)に遇(あは)せず惡(あく)より拯(すくひ)出(いだ)し給(たま)へ國(くに)と權(ちから)と榮(さかえ)は窮(かぎ)りなく爾(なんぢ)の有(もの)なればなりアメン
  14.  爾曹(なんぢら)もし人(ひと)の罪(つみ)を免(ゆる)さば天(てん)に在(まし)ます爾曹(なんぢら)の父(ちち)も亦(また)なんぢらを免(ゆる)し給(たま)はん
  15.  然(され)どもし人(ひと)の罪(つみ)を免(ゆる)さずば爾曹(なんぢら)の父(ちち)も爾曹(なんぢら)の罪(つみ)を免(ゆる)し給(たま)はざるべし
  16. なんぢら斷食(だんじき)するとき僞善者(ぎぜんしや)の如(ごと)き憂(うき)容(さま)をする勿(なか)れ彼等(かれら)は斷食(だんじき)を人(ひと)に見(みせ)ん爲(ため)に顏色(かほいろ)を損(そこな)ふ我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん彼等(かれら)は既(すで)に其(その)報賞(むくい)を得(え)たり
  17. なんぢ斷食(だんじき)する時(とき)は首(かしら)に膏(あぶら)をぬり面(かほ)を洗(あら)へ
  18.  如此(かく)するは爾(なんぢ)の斷食(だんじき)人(ひと)に見(みえ)ずして隱微(かくれ)たるに在(いま)す爾(なんぢ)の父(ちち)に現(あらは)れんが爲(ため)なり然(され)ば隱微(かくれ)たるに鑒(み)たまふ爾(なんぢ)の父(ちち)は明顯(あらは)に報(むくい)たまふべし
  19.  蠧(しみ)くひ銹(さび)くさり盜(ぬすびと)うがちて竊(ぬす)む所(ところ)の地(ち)に財(たから)を蓄(たくは)ふること勿(なか)れ
  20.  蠧(しみ)くひ銹(さび)くさり盜(ぬすびと)穿(うがち)て竊(ぬすま)ざる所(ところ)の天(てん)に財(たから)を蓄(たくは)ふべし
  21.  蓋(そは)なんぢらの財(たから)の在(ある)ところに心(こころ)も亦(また)ある可(べけ)れば也(なり)
  22.  身(み)の光(ひかり)は目(め)なり若(もし)なんぢの目(め)瞭(あきら)かならば全身(ぜんしん)も亦(また)明(あきらか)なるべし
  23.  若(もし)なんぢの目(め)眊(あしか)らば全身(ぜんしん)暗(くら)かるべし是(この)故(ゆゑ)に爾(なんぢ)の中(うち)の光(ひかり)もし暗(くら)からば其(その)暗(くらき)こと如何(いか)に大(おほい)ならず乎(や)
  24.  人(ひと)は二人(ふたり)の主(しゆ)に事(つかふ)ること能(あたは)ず蓋(そは)これを惡(にくみ)かれを愛(いつくし)み此(これ)を親(したし)み彼(かれ)を疎(うとむ)べければ也(なり)なんぢら神(かみ)と財(たから)に兼(かね)事(つかふ)ること能(あた)はず
  25.  是(この)故(ゆゑ)に我(われ)なんぢらに告(つげ)ん生命(いのち)の爲(ため)に何(なに)を食(くら)ひ何(なに)を飮(のみ)また身體(からだ)の爲(ため)に何(なに)を衣(き)んと憂(おもひ)慮(わづらふ)こと勿(なか)れ生命(いのち)は糧(かて)より優(まさ)り身體(からだ)は衣(ころも)よりも優(まさ)れる者(もの)ならず乎(や)
  26.  なんぢら天空(そら)の鳥(とり)を見(み)よ稼(まく)ことなく穡(かる)ことを爲(せ)ず倉(くら)に蓄(たくは)ふることなし然(しか)るに爾曹(なんぢら)の天(てん)の父(ちち)は之(これ)を養(やしな)ひ給(たま)へり爾曹(なんぢら)之(これ)よりも大(おほひ)に勝(すぐ)るる者(もの)ならず乎(や)
  27.  爾曹(なんぢら)のうち誰(たれ)か能(よく)おもひ煩(わづら)ひて其(その)生命(いのち)を寸陰(すんいん)も延(のべ)得(え)んや
  28.  また何故(なにゆゑ)に衣(ころも)のことを思(おもひ)わづらふや野(の)の百合花(ゆり)は如何(いかに)して長(そだつ)かを思(おも)へ勞(つとめ)ず紡(つむ)がざる也(なり)
  29.  われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)んソロモンの榮華(えいぐわ)の極(きはみ)の時(とき)だにも其(その)裝(よそほひ)この花(はな)の一(ひとつ)に及(しか)ざりき
  30.  神(かみ)は今日(けふ)野(の)に在(あり)て明日(あす)爐(ろ)に投(なげ)入(いれ)らるる草(くさ)をも如此(かく)よそはせ給(たま)へば况(まし)て爾曹(なんぢら)をや嗚呼(ああ)信仰(しんかう)うすき者(もの)よ
  31.  然(され)ば何(なに)を食(くら)ひ何(なに)を飮(のみ)なにを衣(き)んとて思(おもひ)わづらふ勿(なか)れ
  32.  此(これ)みな異邦人(いはうじん)の求(もとむ)る者(もの)なり爾曹(なんぢら)の天(てん)の父(ちち)は凡(すべ)て此等(これら)のものの必需(なくてならぬ)ことを知(しり)たまへり
  33.  爾曹(なんぢら)まづ神(かみ)の國(くに)と其(その)義(ただしき)とを求(もとめ)よ然(さら)ば此等(これら)のものは皆(みな)なんぢらに加(くはへ)らるべし
  34.  是(この)故(ゆゑ)に明日(あす)の事(こと)を憂(おもひ)慮(わづらふ)なかれ明日(あす)は明日(あす)の事(こと)を思(おもひ)わづらへ一日(いちにち)の苦勞(くらう)は一日(いちにち)にて足(たれ)り

第七章

  1.  人(ひと)を議(ぎ)すること勿(なか)れ恐(おそら)くは爾曹(なんぢら)もまた議(ぎ)せられん
  2. 爾曹(なんぢら)が人(ひと)を議(ぎ)する如(ごと)く己(おのれ)も議(ぎ)せらるべし爾曹(なんぢら)が人(ひと)を量(はか)るごとく己(おのれ)も量(はか)らるべし
  3. なんぢ兄弟(きやうだい)の目(め)にある物屑(ちり)を視(み)て己(おの)が目(め)にある梁木(うつばり)を知(しら)ざるは何(なん)ぞや
  4. 己(おのれ)の目(め)に梁木(うつばり)のあるに如何(いか)で兄弟(きやうだい)にむかひて爾(なんぢ)が目(め)にある物屑(ちり)を我(われ)に取(とら)せよと曰(いふ)ことを得(え)んや
  5.  僞善者(ぎぜんしや)よ先(まづ)おのれの目(め)より梁木(うつばり)をとれ然(さら)ば兄弟(きやうだい)の目(め)より物屑(ちり)を取(とり)得(う)るやう明(あきら)かに見(みゆ)べし
  6.  犬(いぬ)に聖(きよき)物(もの)を與(あた)ふる勿(なかれ)また豕(ぶた)の前(まへ)に爾曹(なんぢら)の眞珠(しんじゆ)を投(なげ)與(あたふ)る勿(なか)れ恐(おそら)くは足(あし)にて之(これ)を踐(ふみ)ふりかへりて爾曹(なんぢら)を噬(かみ)やぶらん
  7.  求(もと)めよ然(さら)ば與(あたへ)られ尋(たづね)よ然(さら)ばあひ門(もん)を叩(たたけ)よ然(さら)ば開(ひら)かるることを得(え)ん
  8.  蓋(そは)すべて求(もとむ)る者(もの)はえ尋(たづぬ)る者(もの)はあひ門(もん)を叩(たた)く者(もの)は開(ひら)かる可(べけ)ればなり
  9. 爾曹(なんぢら)のうち誰(たれ)か其(その)子(こ)パンを求(もとめ)んに石(いし)を予(あたへ)んや
  10.  また魚(うを)を求(もとめ)んに蛇(へび)を予(あたへ)んや
  11.  然(さら)ば爾曹(なんぢら)惡(あし)き者(もの)ながら善(よき)賜(たまもの)を其(その)子(こ)に予(あた)ふるを知(しる)まして天(てん)に在(いま)す爾曹(なんぢら)の父(ちち)は求(もとむ)る者(もの)に善(よき)物(もの)を予(あたへ)ざらん乎(や)
  12. 是(この)故(ゆゑ)に凡(すべ)て人(ひと)に爲(せ)られんと欲(おもふ)ことは爾曹(なんぢら)また人(ひと)にも其(その)ごとく爲(せ)よ是(これ)律法(おきて)と預言者(よげんしや)なる也(なり)
  13.  窄(せま)き門(もん)より入(いれ)よ沈淪(ほろび)に至(いた)る路(みち)は濶(ひろく)その門(もん)は大(おほい)なり此(これ)より入(いる)もの多(おほ)し
  14. 生(いのち)に至(いた)る路(みち)は窄(せまく)その門(もん)は小(ちひさ)し其(その)路(みち)を得(うる)もの少(まれ)なり
  15. 僞(いつはり)の預言者(よげんしや)を謹(つつし)めよ彼等(かれら)は綿羊(めんやう)の姿(すがた)にて爾曹(なんぢら)に來(きた)れども内(うち)は殘(あらき)狼(おほかみ)なり
  16. 是(これ)その果(み)に由(より)て知(しる)べし誰(たれ)か荊棘(いばら)より葡萄(ぶだう)をとり蒺藜(あざみ)より無花果(いちじく)を採(とる)ことをせん
  17.  凡(すべ)て善(よき)樹(き)は善(よき)果(み)を結(むす)び惡(あしき)樹(き)は惡(あしき)果(み)を結(むす)べり
  18.  善(よき)樹(き)は惡(あしき)果(み)を結(むす)ばず惡(あしき)樹(き)は善(よき)果(み)を結(むす)ぶこと能(あたは)ざる也(なり)
  19.  凡(おほよ)そ善(よき)果(み)を結(むすば)ざる樹(き)は斫(きら)れて火(ひ)に投(なげ)入(いれ)らる
  20.  是(この)故(ゆゑ)に其(その)果(み)に由(より)て之(これ)を知(しる)べし
  21.  我(われ)を召(よび)て主(しゆ)よ主(しゆ)よと曰(いふ)もの盡(ことごと)く天國(てんこく)に入(いる)に非(あら)ず唯(ただ)これに入(いる)者(もの)は我(わが)天(てん)に在(いま)す父(ちち)の旨(むね)に遵(したが)ふ者(もの)のみなり
  22.  其(その)日(ひ)われに語(かたり)て主(しゆ)よ主(しゆ)よ主(しゆ)の名(な)に託(より)てをしへ主(しゆ)の名(な)に託(より)て鬼(おに)をおひ主(しゆ)の名(な)に託(より)て多(おほ)く異(ことなる)能(わざ)を行(なし)しに非(あら)ずやと云(いふ)もの多(おほ)からん
  23.  其(その)時(とき)かれらに告(つげ)われ甞(かつ)て爾曹(なんぢら)を知(しら)ず惡(あく)をなす者(もの)よ我(われ)を離(はなれ)去(され)と曰(いは)ん
  24.  是(この)故(ゆゑ)に凡(すべ)て我(わが)この言(ことば)を聽(きき)て行(おこな)ふ者(もの)を磐(いは)の上(うへ)に家(いへ)を建(たて)たる智(かしこき)人(ひと)に譬(たとへ)ん
  25.  雨(あめ)ふり大水(おほみづ)いで風(かぜ)ふきて其(その)家(いへ)を撞(うて)ども倒(たふる)ることなし是(これ)磐(いは)を基礎(いしずゑ)と爲(なし)たれば也(なり)
  26. 凡(すべ)て我(わが)この言(ことば)を聽(きき)て行(おこな)はざる者(もの)を沙(すな)の上(うへ)に家(いへ)を建(たて)たる愚(おろか)なる人(ひと)に譬(たとへ)ん
  27. 雨(あめ)ふり大水(おほみづ)いで風(かぜ)ふきて其(その)家(いへ)を撞(うて)ば終(つひ)には倒(たふれ)てその傾覆(たふれ)おほいなり
  28.  イエス此等(これら)の言(ことば)を語(かたり)竟(はて)たまへるとき集(あつま)りたる人々(ひとびと)其(その)教(をしへ)を駭(おどろ)きあへり
  29.  そは學者(がくしや)の如(ごとく)ならず權威(けんゐ)を有(もて)る者(もの)の如(ごと)く教(をしへ)たまへば也(なり

第八章

  1.  イエス山(やま)を下(くだり)しとき多(おほく)の人々(ひとびと)これに從(したが)へり
  2. 癩病(らいびやう)の者(もの)きたり拜(はい)して曰(いひ)けるは主(しゆ)もし旨(こころ)に適(かなふ)ときは我(われ)を潔(きよく)なし得(う)べし
  3.  イエス手(て)を伸(のべ)かれに按(つけ)て我(わが)旨(こころ)に適(かな)へり潔(きよく)なれと曰(いひ)ければ癩病(らいびやう)ただちに潔(きよま)れり
  4.  イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは愼(つつしみ)て人(ひと)に告(つぐ)る勿(なか)れ唯(ただ)ゆきて己(おのれ)を祭司(さいし)に見(み)せ且(かつ)モーセが命(めい)ぜし禮物(そなへもの)を献(ささげ)て彼等(かれら)に證據(しようこ)をせよ
  5.  イエス、カペナウンに入(いり)しとき百夫(ひやくにん)の長(かしら)きたり願(ねがふ)て曰(いひ)けるは
  6.  主(しゆ)よ我(わが)僕(しもべ)癱瘋(ちゆうぶ)をやみ家(いへ)に臥(ふし)ゐて甚(はなは)だ惱(なや)めり
  7.  イエス曰(いひ)けるは我(われ)ゆきて之(これ)を醫(いや)すべし
  8.  百夫(ひやくにん)の長(かしら)こたへけるは主(しゆ)よ我(われ)なんぢを我(わ)が屋(やねの)下(した)に入(いれ)奉(まつ)るは恐(おそ)れ多(おほ)し唯(ただ)一言(ひとこと)を出(いだ)し給(たま)はば我(わが)僕(しもべ)は愈(いえ)ん
  9.  蓋(そは)われ人(ひと)の權威(ちから)の下(した)にある者(もの)なるに我(わが)下(した)に亦(また)兵卒(へいそつ)ありて此(これ)に往(ゆけ)と曰(いへ)ばゆき彼(かれ)に來(きた)れと曰(いへ)ば來(きた)る我(わが)僕(しもべ)に此(これ)を行(なせ)と曰(いへ)ば即(すなは)ち行(なす)が故(ゆゑ)なり
  10.  イエスこれを聞(きき)て奇(あやし)み從(したが)へる人々(ひとびと)に曰(いひ)けるは我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)んイスラエルの中(うち)にだに未(いま)だ斯(かか)る篤(あつき)信(しん)に遇(あは)ざる也(なり)
  11.  われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん多(おほく)の人々(ひとびと)東(ひがし)より西(にし)より來(きたり)てアブラハム、イサク、ヤコブと偕(とも)に天國(てんこく)に坐(ざ)し
  12.  國(くに)の諸子(こども)は外(そと)の幽暗(くらき)に逐(おひ)出(いだ)され其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)切齒(はがみ)すること有(あら)ん
  13.  イエス百夫(ひやくにん)の長(かしら)に往(ゆけ)なんぢが信仰(しんかう)の如(ごと)く爾(なんぢ)に成(なる)べしと曰(いひ)たまへる其(その)時(とき)に僕(しもべ)は愈(いえ)たり
  14.  イエス、ペテロの家(いへ)に入(いり)その岳母(しうとめ)の熱(ねつ)を煩(わづら)ひ臥(ふし)ゐたるを見(み)て
  15.  その手(て)に捫(さはり)ければ即(すなは)ち熱(ねつ)されり婦(をんな)おきて彼等(かれら)に事(つか)ふ
  16.  日(ひ)暮(くれ)たるとき人々(ひとびと)鬼(おに)に憑(つか)れたる者(もの)を多(おほ)く携(つれ)來(きたり)ければイエス言(ことば)にて鬼(おに)を逐(おひ)出(いだ)し病(やまひ)ある者(もの)を悉(ことごと)く醫(いや)せり
  17.  預言者(よげんしや)イザヤに托(より)て自(みづか)ら我儕(われら)の恙(わづらひ)を受(うけ)われらの病(やまひ)を負(おふ)と曰(いひ)たまひしに應(かなは)せんが爲(ため)なり
  18.  偖(さて)イエス多(おほく)の人々(ひとびと)の己(おのれ)を環(めぐれ)るを見(み)て弟子(でし)に命(めい)じ向(むかふ)の岸(きし)に往(ゆか)んとし給(たまひ)しに
  19.  ある學者(がくしや)きたりて曰(いひ)けるは師(し)よ何處(いづこ)へ往(ゆき)給(たま)ふとも我(われ)從(したが)はん
  20.  イエス之(これ)に曰(いひ)けるは狐(きつね)は穴(あな)あり天空(そら)の鳥(とり)は巣(す)あり然(され)ど人(ひと)の子(こ)は枕(まくら)する所(ところ)なし
  21.  また弟子(でし)の一人(ひとり)いひけるは主(しゆ)よ先(まづ)ゆきて父(ちち)を葬(はうむ)ることを我(われ)に容(ゆる)せ
  22.  イエス曰(いひ)けるは我(われ)に從(したが)へ死(しに)たる者(もの)に其(その)死(しに)し者(もの)を葬(はうむ)らせよ
  23.  イエス舟(ふね)に登(のり)ければ弟子(でし)等(たち)も之(これ)に從(したが)ふ
  24.  此(この)とき大(おほい)なる颶風(はやて)おこりて舟(ふね)を蔽(おほふ)ばかりなる浪(なみ)たちしにイエスは寢(いね)たり
  25.  弟子(でし)等(たち)これに近(ちかづ)きて醒(おこ)し曰(いひ)けるは主(しゆ)よ救(すくひ)たまへ我儕(われら)亡(ほろび)んとす
  26.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは信仰(しんかう)うすき者(もの)よ何(なん)ぞ懼(おそる)るや遂(つひ)に起(おき)て風(かぜ)と海(うみ)とを斥(いましめ)ければ大(おほい)に平息(おだやか)になりぬ
  27. 人々(ひとびと)奇(あやし)みて曰(いひ)けるは此(こ)は如何(いか)なる人(ひと)ぞ風(かぜ)も海(うみ)も之(これ)に從(したが)ひたり
  28. イエス向(むかふ)の岸(きし)なるガダラ人(びと)の地(ち)に至(いた)れるとき鬼(おに)に憑(つか)れたる二人(ふたり)のもの墓(はか)より出(いで)て彼(かれ)を迎(むか)ふ猛(たけき)こと甚(はなはだ)しくして其(その)途(みち)を人(ひと)の過(すぐ)ること能(あた)はざりしほど也(なり)
  29. かれら呼叫(さけび)て曰(いひ)けるは神(かみ)の子(こ)イエスよ我儕(われら)なんぢと何(なに)の與(かかはり)あらん乎(や)いまだ時(とき)いたらざるに我儕(われら)を責(せめ)んとて此處(ここ)に來(きた)るか
  30. 遙(はるか)はなれて豕(ぶた)の多(おほく)のむれ食(しよく)し居(ゐ)ければ
  31.  鬼(おに)イエスに求(ねがひ)て曰(いひ)けるは若(もし)われらを逐(おひ)出(いだ)さんとならば豕(ぶた)の羣(むれ)に入(いる)ことを容(ゆる)せ
  32. 彼等(かれら)に往(ゆけ)と曰(いひ)ければ鬼(おに)いでて豕(ぶた)の羣(むれ)に入(いり)しに惣(すべて)のむれ山坡(さか)より逸(かけ)て海(うみ)にいり水(みづ)に死(しに)たり
  33.  牧(かふ)者(もの)ども邑(むら)に逃(にげ)走(ゆき)て此(この)事(こと)と鬼(おに)に憑(つか)れたりし者(もの)の事(こと)を告(つげ)ければ
  34. イエスに逢(あは)んとて邑(むら)の者(もの)擧(こぞり)て出(いで)きたり彼(かれ)を見(み)て此(この)境(さかひ)を出(いで)んことを願(ねが)へり

第九章

  1.  イエス舟(ふね)に登(のり)わたりて故邑(ふるさと)に至(いたり)ければ
  2.  癱瘋(ちゆうぶ)にて床(とこ)に臥(ふし)たる者(もの)を人々(ひとびと)舁(かき)來(きた)れりイエス彼等(かれら)が信(しん)ずるを見(み)て癱瘋(ちゆうぶ)の者(もの)に曰(いひ)けるは子(こ)よ心(こころ)安(やす)かれ爾(なんぢ)の罪(つみ)赦(ゆるさ)れたり
  3. ある學者(がくしや)たち心(こころ)の中(うち)に謂(いひ)けるは此(この)人(ひと)は褻涜(けがすこと)を言(いへ)り
  4.  イエスその意(おもひ)を知(しり)て曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)いかなれば心(こころ)に惡(あく)を懷(おも)ふや
  5.  爾(なくぢ)の罪(つみ)赦(ゆる)されたりと言(いふ)と起(おき)て歩(あゆ)めと言(いふ)と孰(いづれ)か易(やす)き
  6.  それ人(ひと)の子(こ)地(ち)にて罪(つみ)を赦(ゆる)すの權(ちから)あることを爾曹(なんぢら)に知(しら)せんとて遂(つひ)に癱瘋(ちゆうぶ)の者(もの)に起(おき)て床(とこ)をとり家(いへ)に歸(かへ)れと曰(いひ)ければ
  7.  起(おき)て其(その)家(いへ)に歸(かへ)りぬ
  8.  人々(ひとびと)これを見(み)て奇(あやし)み此(かく)の如(ごと)き權(ちから)を人(ひと)に賜(たまひ)し神(かみ)を崇(あがめ)たり
  9.  イエス此(ここ)より進(すすみ)往(ゆき)マタイと名(なづ)くる人(ひと)の税關(やくしよ)に坐(ざ)し居(ゐ)けるを見(み)て我(われ)に從(したが)へと曰(いひ)ければ起(たち)て從(したが)へり
  10.  イエス彼(かれ)が家(いへ)に食(しよく)するとき税吏(みつぎとり)罪(つみ)ある人(ひと)おほく來(きた)りてイエス及(および)その弟子(でし)と偕(とも)に坐(ざ)しければ
  11.  パリサイの人(ひと)これを見(み)て其(その)弟子(でし)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)の師(し)は何故(なにゆゑ)税吏(みつぎとり)や罪(つみ)ある人(ひと)と偕(とも)に食(しよく)する乎(か)
  12.  イエス聞(きき)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは康強(すこやか)なる者(もの)は醫者(いしや)の助(たすけ)を需(もとめ)ず唯(ただ)病(やまひ)ある者(もの)これを需(もとむ
  13.  われ矜恤(あはれみ)を欲(このみ)て祭祀(まつり)を欲(このま)ずといふ此(こ)は如何(いか)なる意(こころ)か往(ゆき)て學(まな)ぶべし夫(それ)わが來(きた)るは義(ただしき)人(ひと)を招(まねく)ために非(あら)ず罪(つみ)ある人(ひと)を招(まね)きて悔(くい)改(あらため)させんが爲(ため)なり
  14.  其(その)時(とき)ヨハネの弟子(でし)イエスに來(きたり)て曰(いひ)けるは我儕(われら)とパリサイの人(ひと)はしばしば斷食(だんじき)するに師(し)の弟子(でし)の斷食(だんじき)せざるは何故(なにゆゑ)ぞ
  15.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは新郎(はなむこ)の友(ともだち)その新郎(はなむこ)と偕(とも)に居(をる)うちは哀(かなし)むことを得(え)んや將來(のち)新郎(はなむこ)をひきとらるる日(ひ)きたらん其(その)時(とき)には斷食(だんじき)すべき也(なり)
  16.  新(あたらし)き布(ぬの)を以(も)て舊(ふる)き衣(ころも)を補(つくろ)ふ者(もの)はあらじ蓋(そは)つくろふ所(ところ)のもの反(かへつ)て之(これ)を壞(やぶり)その綻(ほころ)び尤(もつと)も甚(はなは)だしからん
  17.  また新(あたらし)き酒(さけ)を舊(ふる)き革嚢(かはぶくろ)に盛(いる)る者(もの)はあらじ若(もし)しかせば嚢(ふくろ)はりさけ酒(さけ)もれいでて其(その)嚢(ふくろ)も亦(また)壞(すた)らん新(あたらしき)嚢(ふくろ)に新(あたらしき)酒(さけ)を盛(いれ)なば兩(ふたつ)ながら存(たもつ)べし
  18.  イエス彼等(かれら)に此(この)事(こと)を言(いへ)る時(とき)ある宰(つかさ)きたり拜(はい)して曰(いひ)けるは我(わが)女(むすめ)いま既(すで)に死(しね)り來(きたり)て彼(かれ)に手(て)を按(つけ)たまはば生(いく)べし
  19.  イエス起(たち)て彼(かれ)に從(したが)ひ其(その)弟子(でし)と偕(とも)に往(ゆく)
  20.  十二(じふに)年(ねん)血漏(ちろう)を患(わづら)へる婦(をんな)うしろに來(きたり)て其(その)衣(ころも)の裾(すそ)に捫(さは)れり
  21.  蓋(そは)もし衣(ころも)だにも捫(さは)らば愈(いえ)んと意(おも)へばなり
  22.  イエスふりかへり婦(をんな)を見(み)て曰(いひ)けるは女(むすめ)よ心(こころ)安(やす)かれ爾(なんぢ)の信仰(しんかう)なんぢを愈(いや)せり即(すなは)ち婦(をんな)この時(とき)より愈(いゆ)
  23.  イエス宰(つかさ)の家(いへ)に入(いり)りしに笛(ふえ)ふく者(もの)および多(おほく)の人(ひと)の泣(なき)咷(さわぐ)を見(み)て
  24.  之(これ)に曰(いひ)けるは退(しりぞ)け女(むすめ)は死(しぬ)るに非(あら)ずただ寢(いね)たるのみ人々(ひとびひと)イエスを哂笑(あざわら)ふ
  25.  彼等(かれら)を出(いだ)しし後(のち)いりて其(その)手(て)を執(とり)しに女(むすめ)起(おき)たり
  26.  此(この)(名(きこえ)あまねく其(その)地(ち)に播(ひろが)りぬ
  27.  イエス此(ここ)を去(さる)とき二人(ふたり)の瞽者(めしひ)したがひて呼(よび)曰(いひ)けるはダビデの裔(こ)よ我儕(われら)を憐(あはれ)み給(たま)へ
  28.  イエス家(いへ)に入(いり)しに瞽者(めしひ)きたりければ彼等(かれら)に曰(いひ)たまひけるは我(われ)此(この)事(こと)を行(なし)得(う)ると信(しん)ずるや答(こたへ)けるは主(しゆ)よ然(しか)り
  29.  イエス彼等(かれら)の目(め)に手(て)を按(つけ)て爾曹(なんぢら)の信(しん)ずる如(ごと)く爾曹(なんぢら)に成(なる)べしと曰(いひ)ければ
  30.  其(その)目(め)ひらけたりイエス嚴(きびし)く戒(いましめ)て之(これ)に曰(いひ)けるは愼(つつしみ)て人(ひと)に知(しら)する勿(なか)れ
  31.  然(され)ども彼等(かれら)いでて遍(あまね)く其(その)地(ち)にイエスの名(な)を播(ひろ)めたり
  32.  瞽者(めしひ)の出(いづ)るとき人々(ひとびと)鬼(おに)に憑(つか)れたる暗唖(おふし)をイエスに携(つれ)來(きた)りしに
  33.  鬼(おに)おひ出(いだ)されて暗唖(おふし)ものいへり衆人(ひとびと)あやしみ曰(いひ)けるはイスラエルの中(うち)にも未(いま)だ斯(かか)る事(こと)は見(みえ)ざりき
  34.  パリサイの人(ひと)曰(いひ)けるは彼(かれ)鬼(おに)の王(かしら)に藉(より)て鬼(おに)を逐(おひ)出(いだ)せる也(なり
  35.  イエス遍(あまね)く郷邑(むらざと)を廻(めぐり)其(その)會堂(くわいだう)にて教(をしへ)をなし天國(てんこく)の福音(ふくいん)を宣(のべ)傳(つた)へ民(たみ)の中(うち)なる諸(すべて)の病(やまひ)すべての疾(わづらひ)を愈(いや)せり
  36.  牧者(かふもの)なき羊(ひつじ)の如(ごと)く衆人(ひとびと)なやみ又(また)流離(ちりぢり)になりし故(ゆゑ)に之(これ)を見(み)て憫(あはれ)みたまふ
  37.  其(その)とき弟子(でし)等(たち)に曰(いひ)給(たまひ)けるは收稼(かりいれもの)は多(おほ)く工人(はたらくもの)は少(すくな)し
  38.  故(ゆゑ)に其(その)稼主(もちぬし)に工人(はたらくもの)を收稼場(かりいれば)に送(おく)らんことを願(ねが)ふべし

第十章

  1.  偖(さて)イエスその十二(じふに)弟子(でし)をよび彼等(かれら)に汚(けがれ)たる鬼(おに)を逐(おひ)いだし又(また)すべての病(やまひ)すべての疾(わづら)ひを醫(いや)す權(ちから)を賜(たま)へり
  2.  その十二(じふに)使徒(しと)の名(な)は左(さ)の如(ご)とし首(はじめ)にはペテロと名(なづ)け給(たま)ひしシモンその兄弟(きやうだい)アンデレ、ゼベダイの子(こ)ヤコブその兄弟(きやうだい)ヨハネ
  3.  ピリポ、バルトロマイ、トマス税吏(みつぎとり)マタイ、アルパイの子(こ)なるヤコブ、タツダイと名(なづ)くるレツバイ
  4.  カナンのシモン、イスカリオテのユダ是(これ)すなはちイエスを賣(わた)しし者(もの)なり
  5.  イエスこの十二(じふに)を遣(つかは)さんとして命(めい)じ曰(いひ)けるは異邦(いはう)の途(みち)に往(ゆく)なかれ又(また)サマリア人(びと)の邑(むら)にも入(いる)なかれ
  6.  惟(ただ)イスラエルの家(いへ)の迷(まよ)へる羊(ひつじ)に往(ゆけ)
  7.  往(ゆき)て天國(てんこく)近(ちかき)に在(あり)と宣(のべ)傳(つたへ)よ
  8.  病(やまひ)の者(もの)を醫(いや)し癩病(らいびやう)を潔(きよく)し死(しに)たる者(もの)を甦(よみがへ)らせ鬼(おに)を逐(おひ)出(いだ)すことをせよ爾曹(なんぢら)價(あたひ)なしに受(うけ)たれば亦(また)價(あたひ)なしに施(ほどこ)すべし
  9.  爾曹(なんぢら)金(きん)または銀(ぎん)または錢(ぜに)を貯(たくは)へ帶(おぶ)る勿(なか)れ
  10.  行嚢(たびぶくろ)二(ふたつ)の裏衣(したぎ)履(くつ)杖(つゑ)も亦(また)然(しかり)そは工人(はたらくもの)の其(その)食物(しよくもつ)を得(うる)は宜(うべ)なり
  11.  凡(おほよ)そ郷邑(むらざと)に至(いた)らば其(その)中(うち)の好人(よきもの)を訪(たづね)て出(いづ)るまでは其處(そこ)に留(とどま)れ
  12.  人(ひと)の家(いへ)にいらば其(その)平安(やすき)を問(とへ)
  13.  その家(いへ)もし平安(やすき)を得(う)べき者(もの)ならば爾曹(なんぢら)の願(ねが)ふ平安(やすき)は其(その)家(いへ)に至(いた)らん若(も)し平安(やすき)を受(うく)べからざる者(もの)ならば爾曹(なんぢら)の願(ねが)ふ平安(やすき)は爾曹(なんぢら)に歸(かへ)るべし
  14.  もし爾曹(なんぢら)を接(うけ)ず爾曹(なんぢら)の言(ことば)を聽(きか)ざる者(もの)あらば其(その)家(いへ)または其(その)邑(むら)を去(さる)とき足(あし)の塵(ちり)を拂(はら)へ
  15.  われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん審判(さばき)の日(ひ)到(いたら)ばソドムとゴモラの地(ち)は此(この)邑(むら)よりも却(かへつ)て易(やす)からん
  16.  われ爾曹(なんぢら)を遣(つかは)すは羊(ひつじ)を狼(おほかみ)の中(なか)に入(いる)るが如(ごと)し故(ゆゑ)に蛇(へび)の如(ごと)く智(さと)く鴿(はと)の如(ごと)く馴良(おとなし)かれ
  17.  愼(つつし)みて人(ひと)に戒心(こころ)せよ蓋(そは)人(ひと)なんぢらを集議所(しふぎしよ)に解(わた)し又(また)その會堂(くわいだう)にて鞭(むちう)つべければ也(なり)
  18.  又(また)わが縁故(ゆゑ)に因(より)て侯伯(つかさ)および王(わう)の前(まへ)に曳(ひか)るべし是(これ)かれらと異邦人(いはうじん)に證(あかし)をなさんが爲(ため)なり
  19.  人(ひと)なんぢらを解(わた)さば如何(いかに)なにを言(いは)んと思(おも)ひ煩(わづ)らふ勿(なか)れ其(その)とき言(いふ)べき事(こと)は爾曹(なんぢら)に賜(たまは)るべし
  20.  是(これ)なんぢら自(みづか)ら言(いふ)に非(あら)ず爾曹(なんぢら)の父(ちち)の靈(みたま)その衷(うち)に在(あり)て言(いふ)なり
  21.  兄弟(きやうだい)は兄弟(きやうだい)を死(し)に付(わた)し父(ちち)は子(こ)を付(わた)し子(こ)は兩親(ふたおや)を訴(うつた)へ且(かつ)これを殺(ころ)さしむべし
  22.  又(また)なんぢら我(わが)名(な)の爲(ため)に凡(すべて)の人(ひと)に憾(にくま)れん然(され)ど終(をはり)まで忍(しの)ぶ者(もの)は救(すく)はるべし
  23.  この邑(むら)にて人(ひと)なんぢらを責(せめ)なば他(ほか)の邑(むら)に逃(のが)れよ我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん爾曹(なんぢら)イスラエルの諸邑(むらむら)を廻(めぐり)盡(つく)さざる間(うち)に人(ひと)の子(こ)は來(きた)るべし
  24.  弟子(でし)は師(し)より優(まさ)らず僕(しもべ)は主(あるじ)より優(まさ)らざる也(なり)
  25.  弟子(でし)は其(その)師(し)の如(ごと)く僕(しもべ)は其(その)主(あるじ)の如(ごとく)ならば足(たり)ぬべし若(も)し人(ひと)主(あるじ)を呼(よび)てベルゼブルと云(いは)ば况(まし)て其(その)家(いへ)の者(もの)をや
  26.  是(この)故(ゆゑ)に彼等(かれら)を懼(おそ)るること勿(なかれ)そは掩(おほは)れて露(あらは)れざる者(もの)なく隱(かくれ)て知(しら)れざる者(もの)なければ也(なり)
  27.  われ幽暗(くらき)に於(おい)て爾曹(なんぢら)に告(つげ)しことを光明(あかるき)に述(のべ)よ耳(みみ)をつけて聽(きき)しことを屋(やの)上(うへ)に宣(いひ)播(ひろ)めよ
  28.  身(み)を殺(ころ)して魂(たましひ)を殺(ころ)すことを能(あた)はざる者(もの)を懼(おそ)るる勿(なか)れ唯(ただ)なんぢら魂(たましひ)と身(からだ)とを地獄(ぢごく)に滅(ほろぼ)し得(う)る者(もの)を懼(おそ)れよ
  29.  二(に)羽(は)の雀(すずめ)は一(いつ)錢(せん)にて售(うる)に非(あら)ずや然(しか)るに爾曹(なんぢら)の父(ちち)の許(ゆるし)なくば其(その)一(いち)羽(は)も地(ち)に隕(おつ)ること有(あら)じ
  30.  爾曹(なんぢら)の頭(かしら)の髮(け)また皆(みな)かぞへらる
  31.  故(ゆゑ)に懼(おそ)るる勿(なか)れ爾曹(なんぢら)は多(おほく)の雀(すずめ)よりも優(まさ)れり
  32.  然(され)ば凡(おほよ)そ人(ひと)の前(まへ)に我(われ)を識(しる)と言(いは)ん者(もの)を我(われ)も亦(また)天(てん)に在(いま)す我(わが)父(ちち)の前(まへ)に之(これ)を識(しる)と言(いは)ん
  33.  人(ひと)の前(まへ)に我(われ)を識(しら)ずと言(いは)ん者(もの)を我(われ)も亦(また)天(てん)に在(いま)す我(わが)父(ちち)の前(まへ)に之(これ)を識(しら)ずと言(いふ)べし
  34.  地(ち)に泰平(おだやか)を出(いださ)ん爲(ため)に我(われ)來(きた)れりと意(おもふ)なかれ泰平(おだやか)を出(いだ)さんとに非(あら)ず刃(やいば)を出(いだ)さん爲(ため)に來(きた)れり
  35.  夫(それ)わが來(きた)るは人(ひと)を其(その)父(ちち)に背(そむ)かせ女(むすめ)を其(その)母(はは)に背(そむ)かせ媳(よめ)を其(その)姑(しうとめ)に背(そむ)かせんが爲(ため)なり
  36.  人(ひと)の敵(あだ)は其(その)家(いへ)の者(もの)なるべし
  37.  我(われ)よりも父母(ちちはは)を愛(いつくし)む者(もの)は我(われ)に協(かなは)ざる者(もの)なり我(われ)よりも子女(むすこむすめ)を愛(いつくし)む者(もの)は我(われ)に協(かなは)ざる者(もの)なり
  38.  その十字架(じふじか)を任(とり)て我(われ)に從(したが)はざる者(もの)も我(われ)に協(かなは)ざる者(もの)なり
  39.  その生命(いのち)を得(う)る者(もの)は之(これ)を失(うしな)ひ我(わが)ために生命(いのち)を失(うしな)ふ者(もの)は之(これ)を得(う)べし
  40.  爾曹(なんぢら)を接(うく)る者(もの)は我(われ)を接(うく)る也(なり)また我(われ)を接(うく)る者(もの)は我(われ)を遣(つかは)しし者(もの)を接(うく)るなり
  41.  預言者(よげんしや)なるを以(もて)その預言者(よげんしや)を接(うく)る者(もの)は預言者(よげんしや)の報賞(むくい)をうけ義(ただしき)人(ひと)なるを以(もて)その義(ただしき)人(ひと)を接(うく)る者(もの)は義(ただしき)人(ひと)の報賞(むくい)を受(うく)
  42.  わが弟子(でし)なるをもて小(ちひさ)き一人(ひとり)の者(もの)に冷(ひややか)なる水(みづ)一杯(いつぱい)にても飮(のま)する者(もの)は誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん必(かなら)ず其(その)報賞(むくい)を失(うしな)はじ

第十一章

  1.  イエスその十二(じふに)弟子(でし)に示(しめし)畢(をはり)しとき此處(ここ)をさり道(みち)を教(をし)へ廣(ひろめ)んが爲(ため)に彼等(かれら)の諸邑(むらむら)に往(ゆけ)り
  2.  偖(さて)ヨハネ獄(ひとや)にてキリストの行(なし)し業(わざ)を聞(きき)その弟子(でし)二人(ふたり)を彼(かれ)に遣(つかは)して
  3.  曰(いは)せけるは來(きたる)べき者(もの)は爾(なんぢ)なるか又(また)われら他(ほか)に待(まつ)べき乎(か)
  4.  イエス彼等(かれら)に答(こたへ)て曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)が聞(きく)ところ見(みる)ところの事(こと)をヨハネに往(ゆき)て告(つげ)よ
  5.  瞽者(めしひ)はみ跛者(あしなへ)はあゆみ癩病人(らいびやうにん)は潔(きよ)まり聾者(つんぼ)はきき死(しに)たる者(もの)は復活(いきかへ)され貧(まづしき)者(もの)は福音(ふくいん)を聞(きか)せらる
  6.  凡(おほよ)そ我(わが)ために躓(つまづ)かざる者(もの)は福(さいはひ)なり
  7.  彼等(かれら)の歸(かへ)れる後(のち)イエス、ヨハネの事(こと)を人々(ひとびと)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)何(なに)を見(み)んとて野(の)に出(いで)しや風(かぜ)に動(うごか)さるる葦(あし)なる乎(か)
  8.  然(さら)ば爾曹(なんぢら)何(なに)を見(み)んとて出(いで)しや美(やはらかき)服(ころも)を着(き)たる人(ひと)なるか美(やはらかき)服(ころも)を着(き)たる者(もの)は王(わうの)宮(いへ)に在(あり)
  9.  然(さら)ば何(なに)を見(み)んとて出(いで)しや預言者(よげんしや)なるか然(しかり)われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん彼(かれ)は預言者(よげんしや)よりも卓越(すぐれ)たる者(もの)なり
  10.  夫(それ)なんぢに先(さきだ)ちて道(みち)を備(そなふ)る我(わ)が使者(つかひ)を我(われ)なんぢの前(まへ)に遺(おくら)んと録(しる)されたるは即(すなは)ち是(これ)なり
  11.  誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん婦(をんな)の生(うみ)たる者(もの)の中(うち)いまだバプテスマのヨハネより大(おほい)なる者(もの)は起(おこ)らざりき然(され)ど天國(てんこく)の最(いと)小(ちひさ)き者(もの)も彼(かれ)よりは大(おほい)なる也(なり)
  12.  バプテスマのヨハネの時(とき)より今(いま)に至(いた)るまで人々(ひとびと)勵(はげみ)て天國(てんこく)を取(とら)んとす勵(はげみ)たる者(もの)は之(これ)を取(とれ)り
  13.  それ凡(すべて)の預言者(よげんしや)と律法(おきて)の預言(よげん)したるはヨハネの時(とき)までなれば也(なり)
  14.  若(もし)なんぢら我(わが)言(ことば)を承(うく)ることを好(この)まば來(きたる)べきエリヤは是(これ)なり
  15.  耳(みみ)ありて聽(きこ)ゆる者(もの)は聽(きく)べし
  16.  我(われ)この世(よ)を何(なに)に譬(たとへ)んや童子(わらべ)街(ちまた)に坐(ざ)し其(その)侶(とも)を呼(よび)て
  17.  われら笛(ふえ)ふけども爾曹(なんぢら)をどらず哀(かなしみ)をすれども爾曹(なんぢら)胸(むね)うたずと云(いふ)に似(に)たり
  18.  蓋(そは)ヨハネ來(きたり)て食(くら)ふこと飮(のむ)ことを爲(せ)ざれば鬼(おに)に憑(つか)れたる者(もの)なりと人々(ひとびと)言(いへ)り
  19.  人(ひと)の子(こ)きたりて食(くら)ふことをし飮(のむ)ことを爲(す)れば又(また)食(しよく)を嗜(たし)み酒(さけ)を好(この)む人(ひと)税吏(みつぎとり)罪(つみ)ある者(もの)の友(とも)也(なり)といふ然(され)ども智慧(ちゑ)は智慧(ちゑ)の子(こ)に義(ただし)と爲(せ)らるる也(なり
  20.  厥(その)時(とき)イエス多(おほく)の異(ことなる)能(わざ)を行(なし)たまひたる諸邑(むらむら)の悔(くい)改(あらた)めざるに由(より)て責(いましめ)いひけるは
  21.  ああ禍(わざはひ)なる哉(かな)コラジンよ噫(ああ)禍(わざはひ)なる哉(かな)ベテサイダよ爾曹(なんぢら)の中(うち)に行(なし)し異(ことなる)能(わざ)を若(もし)ツロとシドンに行(なし)しならば彼等(かれら)は早(はや)く麻(あさ)をき灰(はひ)を蒙(かむ)りて悔(くい)改(あらため)しなるべし
  22.  われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん審判(さばき)の日(ひ)にはツロとシドンの刑罰(けいばつ)は爾曹(なんぢら)よりも却(かへつ)て易(やす)からん
  23.  既(すで)に天(てん)にまで擧(あげ)られしカペナウンよ又(また)陰府(よみ)に落(おと)さるべし蓋(そは)なんぢに行(なし)し異(ことなる)能(わざ)を若(もし)ソドムに行(なし)しならば今日(けふ)までも尚(なほ)保存(たもち)しならん
  24.  われなんぢらに告(つげ)ん審判(さばき)の日(ひ)にソドムの地(ち)は爾(なんぢ)よりも却(かへつ)て易(やす)かるべし
  25.  其(その)ときイエス答(こたへ)て曰(いひ)けるは天地(てんち)の主(しゆ)なる父(ちち)よ此(この)事(こと)を智(かしこき)者(もの)達(さとき)者(もの)に隱(かく)して赤子(をさなご)に顯(あらは)したまふを謝(しや)す
  26.  父(ちち)よ然(しかり)それ此(かく)の如(ごとき)は聖旨(みこころ)に適(かなへ)るなり
  27.  父(ちち)は我(われ)に萬物(ばんもつ)を予(あたへ)たまへり父(ちち)の外(ほか)に子(こ)を識(しる)もの無(なく)また子(こ)および子(こ)の顯(あらは)す所(ところ)の者(もの)の外(ほか)に父(ちち)を識(しる)者(もの)なし
  28.  凡(すべ)て勞(つかれ)たる者(もの)また重(おもき)を負(おへ)る者(もの)は我(われ)に來(きた)れ我(われ)なんぢらを息(やす)ません
  29.  我(われ)は心(こころ)柔和(にうわ)にして謙遜(へりくだる)者(もの)なれば我(わが)軛(くびき)を負(おひ)て我(われ)に學(ならへ)なんぢら心(こころ)に平安(やすき)を獲(う)べし
  30.  蓋(そは)わが軛(くびき)は易(やすく)わが荷(に)は輕(かろ)ければ也(なり

第十二章

  1.  當時(そのころ)イエス安息日(あんそくにち)に麥(むぎ)の畑(はたけ)を過(すぎ)しが其(その)弟子(でし)たち飢(うゑ)て穗(ほ)を摘(つみ)食(くひ)はじめたり
  2.  パリサイの人(ひと)これを見(み)てイエスに曰(いひ)けるは爾(なんぢ)の弟子(でし)は安息日(あんそくにち)に爲(す)まじき事(こと)を行(なせ)り
  3.  之(これ)に答(こたへ)けるはダビデおよび從(とも)に在(あり)し者(もの)の饑(うゑ)しとき行(なし)し事(こと)を未(いま)だ讀(よま)ざる乎(か)
  4.  即(すなは)ち神(かみ)の殿(みや)に入(いり)て祭司(さいし)の他(ほか)は己(おのれ)および從(とも)にをる者(もの)も食(くら)ふまじき供(そなへ)のパンを食(くら)へり
  5.  また安息日(あんそくにち)に祭司(さいし)は殿(みや)の内(うち)にて安息日(あんそくにち)を犯(をか)せども罪(つみ)なき事(こと)を律法(おきて)に於(おい)て讀(よま)ざる乎(か)
  6.  われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん殿(みや)より大(おほい)なるもの茲(ここ)に在(あり)
  7.  われ矜恤(あはれみ)を欲(このみ)て祭祀(まつり)を欲(このま)ずとは如何(いか)なることか之(これ)を知(しら)ば罪(つみ)なき者(もの)を罪(つみ)せざるべし
  8.  それ人(ひと)の子(こ)は安息日(あんそくにち)の主(しゆ)たるなり
  9.  此(ここ)を去(さり)て彼等(かれら)の會堂(くわいだう)に入(いり)しに
  10.  一手(かたて)なへたる人(ひと)ありければ彼等(かれら)イエスを訴(うつた)へんとて之(これ)に問(とひ)けるは安息日(あんそくにち)には醫(いや)すことを行(なす)べき乎(か)
  11.  彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)の中(うち)に一(ひとつ)の羊(ひつじ)を有(もて)る者(もの)あらんに若(もし)その羊(ひつじ)安息日(あんそくにち)に坑(あな)に陷(おちい)らば之(これ)を挈上(とりあげ)ざる乎(か)
  12.  人(ひと)は羊(ひつじ)より優(すぐる)ること幾何(いかばかり)ぞや然(され)ば安息日(あんそくにち)に善(ぜん)を行(なす)は宜(よし)
  13.  遂(つひ)にその人(ひと)に爾(なんぢ)が手(て)を伸(のべ)よと曰(いひ)ければ伸(のば)せり即(すなは)ち他(ほか)の手(て)の如(ごと)く愈(いゆ)
  14.  パリサイの人(ひと)いでてイエスを殺(ころ)さんと謀(はか)れり
  15. イエス之(これ)を知(しり)て此(ここ)を去(さり)しに多(おほく)の人々(ひとびと)これに從(したが)ふ凡(すべ)て疾病(やまひ)ある者(もの)をみな愈(いや)し
  16.  我(われ)を人(ひと)に露(あらは)すこと勿(なか)れと戒(いましめ)たり
  17.  これ預言者(よげんしや)イザヤの云(いひ)し言(ことば)に
  18.  視(み)よ我(わ)が選(えらび)し我(わが)僕(しもべ)すなはち我(わが)心(こころ)に適(かなひ)たる我(わ)が愛(いつくし)む者(もの)われ之(これ)に我(わが)靈(みたま)を賦(あたへ)ん彼(かれ)異邦人(いはうじん)に審判(さばき)を示(しめ)すべし
  19.  彼(かれ)は競(きそふ)ことなく喧(さけぶ)ことなし人(ひと)街(ちまた)に於(おい)て其(その)聲(こゑ)を聞(きく)ことなし
  20.  審判(さばき)をして勝(かち)とげしむるまでは傷(いため)る葦(あし)を折(をる)ことなく煙(けぶ)れる麻(あさ)を熄(けす)ことなし
  21.  異邦人(いはうじん)も亦(また)その名(な)に頼(よる)べしと有(ある)に應(かなは)せん爲(ため)なり
  22.  爰(ここ)に鬼(おに)に憑(つかれ)たる瞽(めくら)の瘖(おふし)なる者(もの)をイエスの所(ところ)に携(つれ)來(きた)りければ此(この)瞽(めくら)の瘖(おふし)を醫(いや)して言(ものい)ひ見(みゆ)るやうに爲(なせ)り
  23.  衆人(ひとびと)みな奇(あやし)みて曰(いひ)けるは此(こ)はダビデの裔(こ)に非(あら)ざる乎(か)
  24.  パリサイの人(ひと)ききて曰(いひ)けるは此(この)人(ひと)は鬼(おに)の王(かしら)ベルゼブルを役(つか)ふに非(あら)ざれば鬼(おに)を逐(おひ)出(いだす)ことなし
  25.  イエスその意(こころ)を知(しり)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは凡(すべ)て相(あひ)爭(あらそ)ふ國(くに)は亡(ほろ)び凡(すべ)て相(あひ)爭(あらそ)ふ邑(むら)や家(いへ)は立(たつ)べからず
  26.  サタン若(もし)サタンを逐(おひ)出(いだ)さば自(みづか)ら相(あひ)爭(あらそ)ふなり然(さら)ば其(その)國(くに)いかで立(たた)んや
  27.  若(もし)われベルゼブルに由(より)て惡鬼(あくき)を逐(おひ)出(いだ)さば爾曹(なんぢら)の子弟(こども)は誰(たれ)に由(より)て之(これ)を逐(おひ)出(いだ)すや夫(それ)かれらは爾曹(なんぢら)の裁判人(さいばんにん)となるべし
  28.  若(もし)われ神(かみ)の靈(みたま)に由(より)て鬼(おに)を逐(おひ)出(いだ)ししならば神(かみ)の國(くに)はもはや爾曹(なんぢら)に至(いた)れり
  29.  また勇士(つよきもの)をまづ縛(しば)らざれば如何(いか)で其(その)家(いへ)に入(いり)その家具(かぐ)を奪(うば)ふことを得(え)んや縛(しばり)て後(のち)に其(その)家(いへ)を奪(うば)ふべし
  30.  我(われ)と偕(とも)ならざる者(もの)は我(われ)に背(そむ)き我(われ)と偕(とも)に斂(あつめ)ざる者(もの)は散(ちら)すなり
  31.  是(この)故(ゆゑ)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん人々(ひとびと)の凡(すべ)て犯(をか)す所(ところ)の罪(つみ)と神(かみ)を涜(けがす)ことは赦(ゆるさ)れん然(され)ど人々(ひとびと)の聖靈(せいれい)を涜(けがす)ことは赦(ゆるさ)るべからず
  32.  言(ことば)を以(も)て人(ひと)の子(こ)に背(そむ)く者(もの)は赦(ゆるさ)るべし然(され)ど言(ことば)をもて聖靈(せいれい)に背(そむ)く者(もの)は今世(このよ)に於(おい)ても亦(また)來世(のちのよ)に於(おい)ても赦(ゆるさ)るべからず
  33.  或(あるひ)は樹(き)をも善(よし)とし其(その)果(み)をも善(よし)とせよ或(あるひ)は樹(き)をも惡(あしし)とし其(その)果(み)をも惡(あしし)とせよ夫(それ)樹(き)は其(その)果(み)に由(より)て知(しら)るるなり
  34.  ああ蝮(まむし)の裔(すゑ)よ爾曹(なんぢら)惡(あく)にして何(いか)で善(ぜん)を言(いふ)ことを得(え)んや夫(それ)心(こころ)に充(みつ)るより口(くち)に言(いは)るる者(もの)なれば也(なり)
  35.  善(よき)人(ひと)は心(こころ)の善(よき)庫(くら)より善(よき)ものを出(いだ)し惡(あしき)人(ひと)はその惡(あしき)庫(くら)より惡(あしき)ものを出(いだ)せり
  36.  われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん凡(すべ)て人(ひと)のいふ所(ところ)の虚(むなしき)言(ことば)は審判(さばき)の日(ひ)に之(これ)を訴(うつた)へざるを得(え)じ
  37.  それ爾(なんぢ)その曰(いふ)ところの言(ことば)に由(より)て義(ぎ)とせられ又(また)其(その)いふ言(ことば)に由(より)て罪(つみ)ありとせらるる也(なり
  38.  此(この)時(とき)ある學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)答(こたへ)て曰(いひ)けるは師(し)よ休徴(しるし)をなして我儕(われら)に見(み)せんことを爾(なんぢ)に請(ねが)ふ
  39.  答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは奸惡(かんあく)なる世(よ)は休徴(しるし)を求(もとむ)されど預言者(よげんしや)ヨナの休徴(しるし)の外(ほか)は之(これ)に休徴(しるし)を與(あたへ)られじ
  40.  夫(それ)ヨナが三日(みつか)三(み)夜(よ)魚(うを)の腹(はら)の中(なか)に在(あり)し如(ごと)く人(ひと)の子(こ)も三日(みつか)三(み)夜(よ)地(ち)の中(なか)に在(ある)べし
  41.  ニネベの人(ひと)審判(さばき)の日(ひ)に共(とも)に起(たち)て今(いま)の世(よ)の罪(つみ)を定(さだ)めん彼等(かれら)はヨナの誨(をしへ)に由(より)て悔(くい)改(あらため)たり夫(それ)ヨナより大(おほい)なる者(もの)ここに在(あり)
  42.  南(みなみ)の女王(によわう)さばきの日(ひ)に共(とも)に起(たち)て今(いま)の世(よ)の罪(つみ)を定(さだ)めん彼(かれ)は地(ち)の極(はて)よりソロモンの智慧(ちゑ)を聽(きか)んとて來(きた)れり夫(それ)ソロモンより大(おほい)なるもの此(ここ)にあり
  43.  惡鬼(あくき)人(ひと)より出(いで)て旱(かわき)たる地(ところ)を巡(めぐ)り安息(やすき)を求(もとむ)れども得(え)ずして曰(いひ)けるは
  44.  我(わ)が出(いで)し家(いへ)に歸(かへ)らん既(すで)に來(きたり)しに空虚(くうきよ)にして掃(はき)淨(きよま)り飾(かざ)れるを見(み)
  45.  遂(つひ)に往(ゆき)て己(おのれ)よりも惡(あし)き七(ななつ)の惡鬼(あくき)を携(たづさ)へ偕(とも)に入(いり)て此(ここ)に居(すまへ)ばその人(ひと)の後(のち)の患状(ありさま)は前(まへ)よりも更(さら)に惡(あし)かるべし此(この)あしき世(よ)もまた此(かく)の如(ごとく)ならん
  46.  イエス人々(ひとびと)に語(かたり)をる時(とき)その母(はは)と兄弟(きやうだい)かれに言(ものい)はんとて外(そと)に立(たち)ければ
  47.  或(ある)人(ひと)イエスに曰(いひ)けるは爾(なんぢ)の母(はは)と兄弟(きやうだい)なんぢに言(ものい)はんとして外(ひと)に立(たて)り
  48.  イエス告(つげ)し者(もの)に答(こたへ)て曰(いひ)けるは我(わが)母(はは)は誰(たれ)ぞ我(わが)兄弟(きやうだい)は誰(たれ)ぞや
  49.  手(て)を伸(のべ)その弟子(でし)を指(さし)て曰(いひ)けるは是(これ)わが母(はは)わが兄弟(きやうだい)なり
  50.  蓋(そは)すべて我(わ)が天(てん)に在(いま)す父(ちち)の旨(むね)を行(おこな)ふ者(もの)は是(これ)わが兄弟(きやうだい)わが姉妹(しまい)わが母(はは)なれば也(なり

第十三章

  1.  當日(このひ)イエス家(いへ)を出(いで)て海邊(うみべ)に坐(ざ)せしに
  2.  多(おほく)の人々(ひとびと)彼(かれ)に集(あつま)り來(きたり)ければイエスは舟(ふね)に登(のり)て坐(ざ)し凡(すべて)の人々(ひとびと)は岸(きし)に立(たて)り
  3.  イエス譬(たとへ)を以(も)て多端(さまざま)の言(こと)を人々(ひとびと)に語(かたり)ぬ種(たね)まく者(もの)播(まき)に出(いで)しが
  4.  播(まけ)るとき路(みち)の旁(ほとり)に遺(おち)し種(たね)あり空中(そら)の鳥(とり)きたりて啄(ついば)み盡(つく)せり
  5.  また土(つち)うすき磽地(いしぢ)に遺(おち)し種(たね)あり直(ただち)に萌出(はえいで)たれど
  6.  日(ひ)の出(いで)しとき灼(やか)れしかば根(ね)なきが故(ゆゑ)に槁(かれ)たり
  7.  また棘(いばら)の中(なか)に遺(おち)し種(たね)あり棘(いばら)そだちて之(これ)を蔽(ふさ)げり
  8.  また沃壤(よきち)に遺(おち)し種(たね)あり實(み)を結(むす)べること或(あるひ)は百(ひやく)倍(ばい)あるひは六十(ろくじふ)倍(ばい)あるひは三十(さんじふ)倍(ばい)せり
  9.  耳(みみ)ありて聽(きこ)ゆる者(もの)は聽(きく)べし
  10.  弟子(でし)等(たち)きたりて彼(かれ)に曰(いひ)けるは何故(なにゆゑ)に譬(たとへ)をもて彼等(かれら)に語(かた)り給(たま)ふや
  11.  答(こたへ)て曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)には天國(てんこく)の奧義(おくぎ)を知(しる)ことを予(あたへ)たまへど彼等(かれら)には予(あた)へ給(たまは)ざれば也(なり)
  12.  それ有(もて)る者(もの)は予(あたへ)られてなほ餘(あまり)あり無有(もたぬ)者(もの)はその有(もて)る者(もの)をも奪(とら)るる也(なり)
  13.  彼等(かれら)は視(み)ても見(み)ず聽(きき)ても聽(きか)ず悟(さとら)ざるが故(ゆゑ)に我(われ)譬(たとへ)を以(も)て彼等(かれら)に語(かた)れり
  14.  イザヤの預言(よげん)に爾曹(なんぢら)は聽(きけ)ども悟(さと)らず視(みれ)ども見(み)ず
  15.  蓋(そは)この民(たみ)目(め)にて見(み)耳(みみ)にてきき心(こころ)にて悟(さと)り改(あらため)めて我(われ)に醫(いや)されんことを恐(おそれ)その心(こころ)を頑(にぶく)し耳(みみ)を蔽(おほ)ひ目(め)を閉(とぢ)たりと云(いひ)しに應(かな)へり
  16.  然(され)ど爾曹(なんぢら)の目(め)は見(み)爾曹(なんぢら)の耳(みみ)は聞(きく)が故(ゆゑ)に福(さいはひ)なり
  17.  われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん多(おほく)の預言者(よげんしや)と義人(ただしきひと)は爾曹(なんぢら)が見(みる)ところを見(み)んとしたりしが見(みる)ことを得(え)ず爾曹(なんぢら)が聞(きく)ところを聞(きか)んとしたりしが聞(きく)ことを得(え)ざりき
  18.  故(ゆゑ)に爾曹(なんぢら)播種(たねまき)の譬(たとへ)を聽(きけ)
  19.  天國(てんこく)の教(をしへ)を聞(きき)て悟(さと)らざれば惡鬼(あしきもの)きたりて其(その)心(こころ)に播(まか)れたる種(たね)を奪(うば)ふ是(これ)路(みち)の旁(ほとり)に播(まき)たる種(たね)なり
  20.  磽地(いしぢ)に播(まか)れたる種(たね)は是(これ)教(をしへ)を聽(きき)て速(すみや)かに喜(よろこ)び受(うく)れども
  21.  己(おのれ)に根(ね)なければ暫時(しばし)のみ教(をしへ)の爲(ため)に患難(くわんなん)あるひは迫(せめ)らるる事(こと)の起(おこ)る時(とき)は忽(たちま)ち道(みち)に礙(つまづ)く者(もの)なり
  22.  また棘(いばら)の中(なか)に播(まか)れたる種(たね)は是(これ)教(をしへ)を聽(きけ)ども此(この)世(よ)の思慮(こころづかひ)と貨財(たから)の惑(まどひ)に教(をしへ)を蔽(ふさが)れて實(みの)らざる者(もの)なり
  23.  沃壤(よきち)に播(まか)れたる種(たね)は是(これ)教(をしへ)を聽(きき)て悟(さと)り實(み)を結(むすぶ)こと或(あるひ)は百(ひやく)倍(ばい)あるひは六十(ろくじふ)倍(ばい)あるひは三十(さんじふ)倍(ばい)する者(もの)なり
  24.  また譬(たとへ)を彼等(かれら)に示(しめ)して曰(いひ)けるは天國(てんこく)は人(ひと)畑(はたけ)に美(よき)種(たね)を播(まく)に似(に)たり
  25.  人々(ひとびと)の寢(いね)たる間(うち)に其(その)敵(あだ)きたり麥(むぎ)の中(なか)に稗子(からすむぎ)を播(まき)て去(され)り
  26.  苗(なへ)はえ出(いで)て實(みのり)たるとき稗子(からすむぎ)も現(あらは)れたり
  27.  主人(あるじ)の僕(しもべ)きたりて曰(いひ)けるは主(しゆ)よ畑(はたけ)には美(よき)種(たね)を播(まか)ざりしか如何(いかに)して稗子(からすむぎ)ある乎(や)
  28.  僕(しもべ)に曰(いひ)けるは敵人(あだびと)これを行(なせ)り僕(しもべ)主人(あるじ)に曰(いひ)けるは然(しか)らば我儕(われら)ゆきて之(これ)を拔(ぬき)あつむるは宜(よき)か
  29.  否(いな)おそらくは爾曹(なんぢら)稗子(からすむぎ)を拔(ぬき)あつめんとて麥(むぎ)をも共(とも)に拔(ぬく)べし
  30.  收穫(かりいれ)まで二(ふたつ)ながら長(そだて)おけ我(われ)かりいれの時(とき)まづ稗子(からすむぎ)を拔(ぬき)集(あつめ)(※4)て焚(やか)ん爲(ため)に之(これ)を束(つか)ね麥(むぎ)をば我(わが)倉(くら)に收(をさめ)よと刈(かる)者(もの)に言(いは)ん
  31.  また譬(たとへ)を彼等(かれら)に示(しめ)し曰(いひ)けるは天國(てんこく)は芥種(からしだね)の如(ごと)し人(ひと)これを取(とり)て畑(はたけ)に播(まけ)ば
  32.  萬(よろづ)の種(たね)よりは小(ちひさ)けれども長(そだち)ては他(ほか)の草(くさ)より大(おほい)にして天空(そら)の鳥(とり)きたり其(その)枝(えだ)に宿(やどる)ほどの樹(き)となる也(なり
  33.  また譬(たとへ)を彼等(かれら)に語(かたり)けるは天國(てんこく)は麪(ぱん)酵(だね)の如(ごと)し婦(をんな)これをとり三(さん)斗(と)の粉(こ)の中(なか)に藏(かく)せば悉(ことごと)く脹發(ふくれいだ)すなり
  34.  イエス譬(たとへ)をもて凡(すべ)て此等(これら)の事(こと)を衆人(ひとびと)に語(かたり)たまへり譬(たとへ)にあらざれば語(かた)り給(たま)はず
  35.  これ預言者(よげんしや)に託(より)て我(われ)譬(たとへ)を設(まうけ)て口(くち)を啓(ひら)き世(よ)の始(はじめ)より隱(かくれ)たる事(こと)を言(いひ)出(いだ)さんと云(いは)れたるに應(かなは)せん爲(ため)なり
  36.  遂(つひ)にイエス衆人(ひとびと)を歸(かへ)して室(いへ)に入(いれ)り其(その)弟子(でし)きたりて曰(いひ)けるは畑(はたけ)の稗子(からすむぎ)の譬(たとへ)を我儕(われら)に解(とき)たまへ
  37.  之(これ)に答(こたへ)て曰(いひ)けるは美(よき)種(たね)を播(まく)者(もの)は人(ひと)の子(こ)なり
  38.  畑(はたけ)はこの世界(せかい)なり美(よき)種(たね)は是(これ)天國(てんこく)の諸子(こども)なり稗子(からすむぎ)は惡魔(あくま)の子類(こどもら)なり
  39.  之(これ)をまく敵(あだ)は惡魔(あくま)なり收穫(かりいれ)は世(よ)の末(をはり)なり刈(かる)者(もの)は天(てん)の使(つかひ)等(たち)なり
  40.  稗子(からすむぎ)の斂(あつめ)て火(ひ)に焚(やかる)る如(ごと)く此(この)世(よ)の末(をはり)に於(おい)ても此(かく)の如(ごと)くなるべし
  41. 人(ひと)の子(こ)その使者(つかひ)たちを遣(つかは)して其(その)國(くに)の中(うち)より凡(すべ)て躓礙(つまづき)となる者(もの)また惡(あく)をなす人(ひと)を斂(あつめ)て
  42.  之(これ)を爐(ろ)の火(ひ)に投(なげ)入(いる)べし其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)切齒(はがみ)すること有(あら)ん
  43.  此(この)とき義(ただしき)人(ひと)は其(その)父(ちち)の國(くに)に於(おい)て日(ひ)の如(ごと)く輝(かがや)かん耳(みみ)ありて聽(きこ)ゆる者(もの)は聽(きく)べし
  44.  また天國(てんこく)は畑(はたけ)に藏(かくれ)たる寶(たから)の如(ごと)し人(ひと)みいださば之(これ)を祕(かく)し喜(よろこ)び歸(かへ)り其(その)所有(もちもの)を盡(ことごと)く賣(うり)てその畑(はたけ)を買(かふ)なり
  45.  また天國(てんこく)は好(よき)眞珠(しんじゆ)を求(もとめ)んとする商人(あきびと)の如(ごと)し
  46.  一(ひとつ)の値(あたひ)たかき眞珠(しんじゆ)を見出(みいだ)さばその所有(もちもの)を盡(ことごと)く賣(うり)て之(これ)を買(かふ)なり
  47.  また天國(てんこく)は海(うみ)に投(うち)て各樣(さまざま)の魚(うを)をとる網(あみ)の如(ごと)し
  48.  既(すで)に盈(みつ)れば岸(きし)に曳(ひき)あげ坐(すわり)て嘉(よき)ものを器(うつは)にいれ惡(あしき)ものを棄(すつ)るなり
  49.  世(よ)の末(をはり)に於(おい)ても此(かく)の如(ごとく)ならん天(てん)の使(つかひ)等(たち)いでて義(ただしき)者(もの)の中(うち)より惡(あしき)者(もの)を取(とり)わけ
  50.  之(これ)を爐(ろ)の火(ひ)に投(なげ)入(いる)べし其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)切齒(はがみ)すること有(あら)ん
  51.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは此(この)事(こと)を皆(みな)悟(さとり)しや彼(かれ)に曰(いひ)けるは主(しゆ)よ然(しかり)
  52.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは然(さら)ば天國(てんこく)について教(をしへ)られたる學者(がくしや)は新(あたらし)き物(もの)と舊(ふる)き物(もの)とを其(その)庫(くら)より出(いだ)す家(いへ)の主(あるじ)の如(ごと)し
  53.  イエス此(この)譬(たとへ)を言(いひ)畢(をはり)て此(ここ)を去(さり)ぬ
  54.  その故土(ふるさと)にいたり會堂(くわいだう)にて教(をしへ)しに人々(ひとびと)奇(あやし)み曰(いひ)けるは此(この)人(ひと)の智慧(ちゑ)と異(ふしぎ)なる能(わざ)は何處(いづこ)より來(きた)るや
  55.  これ木匠(たくみ)の子(こ)に非(あら)ずや其(その)母(はは)はマリア其(その)兄弟(きやうだい)はヤコブ、ヨセ、シモン、ユダに非(あら)ずや
  56.  其(その)妹(いもうと)等(たち)は皆(みな)我儕(われら)と偕(とも)に在(ある)に非(あら)ずや然(しか)るに此(この)人(ひと)の凡(すべ)て此等(これら)の事(こと)は何處(いづこ)より來(きたり)しや
  57.  遂(つひ)に厭(いとふ)て之(これ)を棄(すつ)イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは預言者(よげんしや)は其(その)故土(ふるさと)その家(いへ)の外(ほか)に於(おい)て尊(たふと)まれざることなし
  58.  彼等(かれら)が信(しん)ずることなきに由(より)て多(おほく)の異(ふしぎ)なる能(わざ)を此(ここ)に行(なし)給(たま)はざりき

第十四章

  1.  其(その)ころ分封(わけもち)の君(きみ)ヘロデ、イエスの聲名(うはさ)を聞(きき)て
  2.  その僕(しもべ)に曰(いひ)けるは是(これ)バプテスマのヨハネなり彼(かれ)死(し)より甦(よみがへ)りたり故(ゆゑ)に異(ふしぎ)なる能(わざ)を行(おこな)ふなり
  3.  前(さき)にヘロデその兄弟(きやうだい)ピリポの妻(つま)ヘロデヤの事(こと)に由(より)てヨハネを捕(とら)へ縛(しばり)て獄(ひとや)に入(いれ)たり
  4.  此(こ)はヨハネ、ヘロデに此(この)婦(をんな)を娶(めと)るは宜(よろ)しからずと云(いひ)しに因(よる)
  5.  彼(かれ)ヨハネを殺(ころ)さんと欲(おもへ)ど民(たみ)これを預言者(よげんしや)とするにより彼等(かれら)を懼(おそれ)たりしが
  6.  ヘロデ誕生(たんじやう)の日(ひ)を祝(いは)へる時(とき)ヘロデヤの女(むすめ)その座上(ざじやう)にて舞(まひ)をなしヘロデを悦(よろこ)ばせければ
  7.  何(いか)なる物(もの)にても求(もとめ)に任(まかせ)て予(あたへ)んとヘロデ之(これ)に誓(ちかひ)たり
  8.  女(むすめ)その母(はは)の勸(すすめ)ありしに因(より)バプテスマのヨハネの首(くび)を盆(ぼん)に載(のせ)て此(ここ)に賜(たまは)れと曰(いふ)
  9.  王(わう)憂(うれへ)けれども既(すで)に誓(ちかひ)たると席(せき)に列(つらな)れる者(もの)の爲(ため)に予(あたふ)ることを命(めい)じ
  10.  即(すなは)ち人(ひと)を遣(つかは)し獄(ひとや)に於(おい)てヨハネの首(くび)を斬(きら)せ
  11.  その首(くび)を盆(ぼん)に載(のせ)て女(むすめ)に予(あたへ)ければ女(むすめ)は之(これ)を其(その)母(はは)に捧(ささげ)たり
  12.  ヨハネの弟子(でし)等(たち)來(きた)りて屍(しかばね)を取(とり)てこれを葬(はうむ)り往(ゆき)てイエスに告(つぐ)
  13.  イエスこれを聞(きき)て人(ひと)をさけ舟(ふね)に登(のり)て其處(そこ)を去(さり)さびしき處(ところ)に往(ゆき)給(たま)ひしが衆人(ひとびと)ききて歩行(かち)にて彼(かれ)に從(したが)へり
  14.  イエス出(いで)て多(おほく)の人(ひと)を見(み)て之(これ)を憫(あはれ)み其(その)病(やめ)る者(もの)を醫(いや)せり
  15.  日(ひ)くるる時(とき)其(その)弟子(でし)きたりて曰(いひ)けるは此(ここ)は寂寞(さびしき)ところにして時(とき)もはや遲(おそ)し諸邑(むらむら)に往(ゆき)て自(みづか)ら食(しよく)を求(もとめ)させん爲(ため)に人々(ひとびと)を去(さら)しめよ
  16.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは人々(ひとびと)往(ゆか)ずとも可(よし)爾曹(なんぢら)之(これ)に食(しよく)を予(あたへ)よ
  17.  答(こたへ)けるは我儕(われら)此(ここ)にただ五(いつつ)のパンと二(ふたつ)の魚(うを)あるのみ
  18.  イエス曰(いひ)けるは其(それ)を此(ここ)に携(もち)來(きた)れ
  19.  遂(つひ)に衆人(ひとびと)に命(めい)じて草(くさ)の上(うへ)に坐(すわら)しめ五(いつつ)のパンと二(ふたつ)の魚(うを)をとり天(てん)を仰(あふぎ)て謝(しや)しパンを擘(わり)て弟子(でし)にあたふ弟子(でし)之(これ)を衆人(ひとびと)に予(あたへ)ぬ
  20.  みな食(くらひ)て飽(あき)其(その)餘(あまり)たる屑(くづ)を拾(ひろひ)しに十二(じふに)の筐(かご)に盈(みち)たり
  21.  食(くらひ)し者(もの)は婦(をんな)と幼童(こども)の外(ほか)凡(おほよ)そ五(ご)千(せん)人(にん)なりき
  22.  頓(やが)てイエス衆人(ひとびと)を歸(かへ)さんとして其(その)弟子(でし)を強(しひ)て船(ふね)にのせ向(むかふ)の岸(きし)へ先(さき)に渡(わたら)しむ
  23.  斯(かく)て衆人(ひとびと)を歸(かへ)しければ祈禱(いのり)せんとて密(ひそか)に山(やま)に上(のぼ)り日(ひ)暮(くれ)て獨(ひとり)そこに在(いま)せり
  24.  舟(ふね)は海中(わだなか)に在(あり)て逆風(ぎやくふう)の爲(ため)に浪(なみ)に漂(ただよ)はさる
  25.  夜(よ)の四(よ)時(じ)ごろイエス海(うみ)の上(うへ)を歩(あゆみ)て之(これ)に至(いたり)しに
  26.  弟子(でし)其(その)海(うみ)の上(うへ)を歩(あゆめ)るを見(み)て驚(おどろ)き此(こ)は變化(へんげ)の物(もの)ならんと曰(いひ)て懼(おそ)れ叫(さけび)たり
  27.  イエス頓(やが)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは心(こころ)安(やす)かれ我(われ)なり懼(おそ)るる勿(なか)れ
  28.  ペテロ答(こたへ)て曰(いひ)けるは主(しゆ)よ若(も)し爾(なんぢ)ならば我(われ)に命(めい)じ水(みづ)を履(ふみ)て爾(なんぢ)の所(もと)に至(いたら)しめよ
  29.  來(きたれ)と曰(いひ)給(たま)ひければペテロ舟(ふね)より下(おり)てイエスの所(もと)に至(いたら)んとて浪(なみ)の上(うへ)を歩(あゆみ)たれど
  30.  風(かぜ)の烈(はげ)きを見(み)て懼(おそれ)れ沈(しづみ)かかりければ主(しゆ)よ我(われ)を救(たすけ)たまへと曰(いふ)
  31.  イエス頓(やが)て手(て)を伸(のべ)之(これ)を執(とらへ)て曰(いひ)けるは信仰(しんかう)うすき者(もの)よ何(なん)ぞ疑(うたが)ふや
  32.  偕(とも)に舟(ふね)に登(のり)ければ風(かぜ)しづまりぬ
  33.  舟(ふね)に居(をり)し者(もの)ちかよりて彼(かれ)を拜(はい)し曰(いひ)けるは誠(まこと)に爾(なんぢ)は神(かみ)の子(こ)なり
  34.  遂(つひ)に渡(わたり)てゲネサレの地(ち)に到(いたり)しかば
  35.  其(その)處(ところ)の人々(ひとびと)イエスを識(しり)て遍(あまね)く四方(しはう)に人(ひと)を遣(つかは)し凡(すべ)て病(やまひ)の者(もの)を携(たづさ)へ來(きた)らしむ
  36.  只(ただ)其(その)衣(ころも)の裾(すそ)に捫(さは)らんことをイエスに願(ねが)へり捫(さはり)し者(もの)は則(すなは)ちみな愈(いや)されたり

第十五章

  1.  時(とき)にエルサレムの學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)イエスに來(きたり)て曰(いひ)けるは
  2.  爾(なんぢ)の弟子(でし)古(いにしへ)の人(ひと)の遺傳(つたへ)を犯(をかす)は何故(なにゆゑ)ぞ蓋(そは)食(しよく)する時(とき)に其(その)手(て)を洗(あらは)ざれば也(なり)
  3.  答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)は亦(また)なんぢらの遺傳(つたへ)によりて神(かみ)の誡(いましめ)を犯(をかす)は何故(なにゆゑ)ぞ
  4.  それ神(かみ)いましめて爾(なんぢ)の父母(ちちはは)を敬(うやま)へ又(また)父母(ちちはは)を詈(ののし)る者(もの)は殺(ころ)さるべしと宣給(のたま)へり
  5.  然(しか)るに爾曹(なんぢら)は曰(いひ)て凡(すべ)て人(ひと)父母(ちちはは)に對(むかひ)なんぢを養(やしな)ふ可(べき)ものは禮物(そなへもの)なりと云(いは)ば
  6.  その父母(ちちはは)を敬(うやま)はずとも可(よし)とす斯(かく)て爾曹(なんぢら)遺傳(つたへ)により神(かみ)の誡(いましめ)を廢(むなし)くせり
  7.  僞善者(ぎぜんしや)よイザヤは能(よく)なんぢらに就(つい)て預言(よげん)し
  8.  此(この)民(たみ)は口(くち)にて我(われ)に近(ちかづ)き唇(くちびる)にて我(われ)を敬(うやま)へども其(その)心(こころ)は我(われ)に遠(とほざ)かり
  9.  人(ひと)の誡(いましめ)を教(をしへ)となして徒(いたづ)らに我(われ)を拜(はい)すと云(いへ)り
  10.  イエス人々(ひとびと)を召(よび)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは聽(きき)て悟(さと)れ
  11.  口(くち)に入(いる)ものは人(ひと)を汚(けが)さず口(くち)より出(いづ)るものは是(これ)人(ひと)を汚(けが)すなり
  12.  弟子(でし)きたりてイエスに曰(いひ)けるはパリサイの人(ひと)この言(ことば)を聞(きき)て厭(いとひ)棄(すつ)るを爾(なんぢ)知(しる)か
  13.  答(こたへ)て曰(いひ)けるは我(わ)が天(てん)の父(ちち)の植(うゑ)ざる者(もの)はみな拔(ぬか)るべし
  14.  彼等(かれら)を棄(すて)おけ瞽者(めしひ)の相(てびき)する瞽者(めしひ)なり若(もし)めしひのもの瞽者(めしひ)の相(てびき)せば二人(ふたり)とも溝(みぞ)に落(おつ)べし
  15.  ペテロ、イエスに答(こたへ)て曰(いひ)けるは此(この)譬(たとへ)を我儕(われら)に解(とき)たまへ
  16.  イエス曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)も未(いま)だ悟(さとら)ざる乎(か)
  17.  凡(すべ)て口(くち)に入(いる)ものは腹(はら)を運(とほり)て厠(かはや)に落(おつ)るを未(いま)だ知(しら)ざるか
  18.  口(くち)より出(いづ)るものは心(こころ)より出(いづ)これ人(ひと)を汚(けが)すもの也(なり)
  19.  蓋(そは)心(こころ)より出(いづ)る所(ところ)の惡念(あくねん)、凶殺(きやうさつ)、姦淫(かんいん)、苟口(こふがう)、盜竊(とうせつ)、妄證(ばうしよう)、謗讟(はうとく)
  20.  此等(これら)は人(ひと)を汚(けが)すものなり然(され)ども手(て)を洗(あらは)ずして食(くら)ふは人(ひと)を汚(けが)さず
  21.  イエス此(ここ)を去(さり)てツロとシドンの地(ち)に往(ゆき)けるに
  22.  其(その)地(ち)に住(すめ)るカナンの婦(をんな)いでて呼(よば)はり曰(いひ)けるは主(しゆ)よダビデの裔(こ)よ我(われ)を憫(あはれ)み給(たま)へ我(わが)むすめ鬼(おに)に憑(つか)れて甚(いた)く苦(くるし)めり
  23.  イエス一言(ひとこと)も彼(かれ)に答(こたへ)ざりしかば其(その)弟子(でし)きたり請(こふ)て曰(いひ)けるは我儕(われら)の後(あと)より呼(よば)はるが故(ゆゑ)に彼(かれ)を去(さら)せ給(たま)へ
  24.  答(こたへ)て曰(いひ)けるはイスラエルの家(いへ)の迷(まよ)へる羊(ひつじ)の外(ほか)に我(われ)は遣(つかは)されず
  25.  婦(をんな)きたり拜(はい)して曰(いひ)けるは主(しゆ)よ我(われ)を助(たすけ)たまへ
  26.  答(こたへ)けるは兒女(こども)のパンを取(とり)て犬(いぬ)に投(なげ)與(あた)ふるは宜(よろし)からず
  27.  婦(をんな)いひけるは主(しゆ)よ然(しかり)されど犬(いぬ)もその主人(しゆじん)の膳(ぜん)より落(おつ)る屑(くづ)を食(くらふ)なり
  28.  遂(つひ)にイエス答(こたへ)て曰(いひ)けるは婦(をんな)よ爾(なんぢ)の信仰(しんかう)は大(おほい)なり願(ねがひ)の如(ごと)く爾(なんぢ)に成(なる)べし此(この)時(とき)より其(その)女(むすめ)いえたり
  29.  イエス此(ここ)を去(さり)ガリラヤの海邊(うみべ)にゆき山(やま)に登(のぼ)りて坐(ざ)せり
  30.  多(おほく)の人々(ひとびと)跛者(あしなへ)、瞽者(めしひ)、瘖者(おふし)、殘缺者(かたは)および各樣(さまざま)の疾病(やまひ)ある者(もの)を伴(ともな)ひきたりイエスの足下(あしもと)に置(おき)ければ即(すなは)ち之(これ)を醫(いや)しぬ
  31.  是(ここ)に於(おい)て瘖者(おふし)はものいひ殘缺(かたは)はいえ跛者(あしなへ)はあゆみ瞽者(めしひ)は見(み)たるを人々(ひとびと)見(み)て奇(あやし)みイスラエルの神(かみ)を榮(あがめ)たり
  32.  イエスその弟子(でし)を呼(よび)て曰(いひ)けるは我(われ)この衆人(ひとびと)を憫(あはれ)む彼等(かれら)われと偕(とも)に居(をる)こと三日(みつか)にして食(くら)ふものなし飢(うゑ)させて去(さら)しむることを欲(このま)ず恐(おそら)くは途間(みち)にて惱(なやま)ん
  33.  其(その)弟子(でし)かれに曰(いひ)けるは野(の)にて此(この)多(おほ)くの人(ひと)に飽(あか)するほどのパンを何處(いづこ)より得(え)んや
  34.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるはパン幾何(いくつ)あるや答(こたへ)けるは七(ななつ)と些少(すこし)の魚(うを)あり
  35.  イエス人々(ひとびと)に命(めい)じて地(ち)に坐(すわら)しめ
  36.  七(ななつ)のパンと魚(うを)を取(とり)て謝(しや)し之(これ)を擘(わり)て其(その)弟子(でし)に予(あたへ)しかば弟子(でし)これを人々(ひとびと)に予(あた)ふ
  37.  食(くらふ)てみな飽(あき)たり餘(あまり)の屑(くづ)を拾(ひろひ)しに七(ななつ)の籃(かご)に盈(みて)り
  38.  之(これ)を食(くらへ)るもの婦(をんな)と孩子(こども)の外(ほか)に四(し)千(せん)人(にん)ありき
  39.  イエス人々(ひとびと)を去(さら)しめ舟(ふね)に登(のり)てマグダラの境(さかひ)に至(いた)れり

第十六章

  1.  パリサイとサドカイの人(ひと)きたりてイエスを試(こころみ)んとて天(てん)の休徴(しるし)を我儕(われら)に見(み)せよと曰(いひ)ければ
  2.  彼等(かれら)に答(こたへ)けるは爾曹(なんぢら)暮(ゆふべ)には夕紅(ゆふやけ)に由(より)て晴(はれ)ならんと言(いひ)
  3.  晨(あした)には朝紅(あさやけ)また曇(くもり)に由(より)て今日(けふ)は雨(あめ)ならんといふ僞善者(ぎぜんしや)よ空(そら)の景色(けしき)を別(わかつ)ことを知(しり)て時(とき)の休徴(しるし)を別(わか)ち能(あた)はざる乎(か)
  4.  姦惡(かんあく)なる世(よ)は休徴(しるし)を求(もとむ)るとも預言者(よげんしや)ヨナの休徴(しるし)のほか休徴(しるし)を予(あたへ)られじ遂(つひ)に彼等(かれら)を離(はな)れて去(さり)ぬ
  5.  その弟子(でし)むかふの岸(きし)に到(いたり)しにパンを携(たづさ)ふることを忘(わすれ)たり
  6. イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは戒心(こころ)してパリサイとサドカイの人(ひと)の麪酵(ぱんだね)を愼(つつし)めよ
  7. 弟子(でし)たがひに論(ろん)じて曰(いひ)けるは是(これ)パンを携(たづさ)へざりし故(ゆゑ)ならん
  8.  イエスこれを知(しり)て曰(いひ)けるは信仰(しんかう)うすき者(もの)よ何(なん)ぞ互(たがひ)にパンを携(たづ)へざりしことを論(ろん)ずる乎(や)
  9.  未(いま)だ悟(さと)らざるか五(ご)千(せん)人(にん)に五(いつつ)のパンを予(あたへ)しとき幾(いく)筐(かご)ひろひし乎(や)
  10.  また四(し)千(せん)人(にん)に七(ななつ)のパンを予(あたへ)しとき幾(いく)籃(かご)ひろひしや爾曹(なんぢら)これを記(おぼえ)ざるか
  11.  パリサイとサドカイの人(ひと)の麪酵(ぱんだね)を愼(つつし)めとはパンにつきて言(いへ)るに非(あらざ)るを何(なん)ぞ悟(さと)らざる
  12.  是(ここ)に於(おい)て弟子(でし)その麪酵(ぱんだね)にはあらでパリサイとサドカイの人(ひと)の教(をしへ)を謹(つつし)めと言(いへ)るなるを悟(さと)れり
  13.  イエス、カイザリヤ、ピリピの方(かた)に到(いたり)しとき其(その)弟子(でし)に問(とふ)て曰(いひ)けるは人々(ひとびと)は人(ひと)の子(こ)を誰(たれ)と言(いふ)や
  14.  彼等(かれら)いひけるは或(ある)人(ひと)はバプテスマのヨハネ或(ある)人(ひと)はエリヤ或(ある)人(ひと)はエレミヤまた預言者(よげんしや)の一人(ひとり)なりと言(いへ)り
  15.  彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)は我(われ)を言(いひ)て誰(たれ)とする乎(か)
  16.  シモン、ペテロ答(こたへ)けるは爾(なんぢ)はキリスト活(いける)神(かみ)の子(こ)なり
  17.  イエス答(こたへ)て彼(かれ)に曰(いひ)けるはヨナの子(こ)シモン爾(なんぢ)は福(さいはひ)なり蓋(そは)血肉(けつにく)なんぢに示(しめ)せるに非(あら)ず天(てん)に在(いま)す吾(わが)父(ちち)なり
  18.  我(われ)また爾(なんぢ)に告(つげ)ん爾(なんぢ)はペテロなり我(わ)が教會(けうくわい)をこの磐(いは)の上(うへ)に建(たつ)べし陰府(よみ)の門(もん)は之(これ)に勝(かつ)べからず
  19.  又(また)われ天國(てんこく)の鑰(かぎ)を爾(なんぢ)に予(あた)へん爾(なんぢ)が地(ち)に於(おい)て繋(つなぐ)ことは天(てん)に於(おい)ても繋(つなぎ)なんぢが地(ち)に於(おい)て釋(とく)ことは天(てん)に於(おい)ても釋(とく)べし
  20.  遂(つひ)に其(その)弟子(でし)を戒(いまし)めけるは我(われ)をキリストと人(ひと)に告(つぐ)ること勿(なか)れ
  21.  此(この)時(とき)よりイエス其(その)弟子(でし)に己(おのれ)のエルサレムに往(ゆき)て長老(としより)祭司(さいし)の長(をさ)學者(がくしや)等(たち)より多(おほく)の苦(くるし)みを受(うけ)かつ殺(ころ)され第三日(みつかめ)に甦(よみがへ)る等(など)なすべき事(こと)を示(しめ)し始(はじ)む
  22.  ペテロ、イエスを援(ひき)とめて主(しゆ)よ宜(よか)らず此(この)事(こと)爾(なんぢ)に來(きた)るまじと曰(いひ)ければ
  23.  イエス反顧(ふりかへり)てペテロに曰(いひ)たまひけるはサタンよ我(わが)後(うしろ)に退(しりぞ)け爾(なんぢ)は我(われ)に礙(つまづ)く者(もの)なり夫(それ)爾(なんぢ)は神(かみ)の事(こと)を思(おも)はず人(ひと)の事(こと)を思(おも)へり
  24.  此(この)時(とき)イエス其(その)弟子(でし)に曰(いひ)けるは若(もし)我(われ)に從(したが)はんと欲(おも)ふ者(もの)は己(おのれ)を棄(すて)その十字架(じふじか)を負(おひ)て我(われ)に從(したが)へ
  25.  蓋(そは)生命(いのち)を保全(まつたう)せんとする者(もの)は之(これ)を失(うしな)ひ我(わが)ために其(その)生命(いのち)を失(うしな)ふ者(もの)は之(これ)を得(う)べければ也(なり)
  26.  もし人(ひと)全世界(せかいぢう)を得(うる)とも其(その)生命(いのち)を失(うしな)はば何(なん)の益(えき)あらん乎(や)また人(ひと)なにを以(も)て其(その)生命(いのち)に易(かへ)んや
  27.  それ人(ひと)の子(こ)は父(ちち)の榮光(えいくわう)を以(も)て其(その)使(つかひ)等(たち)と偕(とも)に來(きた)らん其(その)時(とき)おのおのの行(おこなひ)に由(より)て報(むく)ゆべし
  28.  誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん人(ひと)の子(こ)其(その)國(くに)を以(も)て來(きた)るを見(みる)までは此(ここ)に立(たつ)ものの中(なか)に死(しな)ざる者(もの)あるべし

第十七章

  1. 六日(むいか)の後(のち)イエス、ペテロ、ヤコブその兄弟(きやうだい)ヨハネを伴(ともな)ひ人(ひと)を避(さけ)て高(たかき)山(やま)に登(のぼ)り給(たまひ)しが
  2.  彼等(かれら)の前(まへ)にて其(その)容貌(すがた)かはり其(その)面(かほ)日(ひ)の如(ごと)く輝(かがや)き其(その)衣(ころも)は白(しろ)く光(ひか)れり
  3.  モーセとエリヤ現(あらは)れてイエスと偕(とも)に語(かたり)ぬ
  4. ペテロ答(こたへ)てイエスに曰(いひ)けるは主(しゆ)よ我儕(われら)ここに居(をる)は善(よし)もし尊旨(みこころ)に適(かな)はば我儕(われら)に三(みつ)の廬(いほり)を建(つくら)せたまへ一(ひとつ)は主(しゆ)のため一(ひとつ)はモーセのため一(ひとつ)はエリヤの爲(ため)にせん
  5.  如此(かく)いへる時(とき)かがやける雲(くも)かれらを蔽(おほ)ふ聲(こゑ)雲(くも)より出(いで)て言(いひ)けるは此(こ)は我(わが)旨(こころ)に適(かな)ふわが愛子(あいし)なり爾曹(なんぢら)これに聽(きく)べし
  6.  弟子(でし)これを聞(きき)て大(おほい)におそれ倒(たふ)れ伏(ふし)たり
  7. イエス來(きた)りて彼等(かれら)に手(て)を按(つけ)おきよ懼(おそ)るる勿(なか)れと曰(いひ)ければ
  8.  其(その)目(め)を擧(あげ)しに惟(ただ)イエスのほか一人(ひとり)をも見(み)ざりき
  9.  山(やま)を下(くだ)る時(とき)にイエス彼等(かれら)に命(めい)じて人(ひと)の子(こ)の死(し)より甦(よみがへ)るまでは爾曹(なんぢら)の見(み)し事(こと)を人(ひと)に告(つぐ)べからずと言(いへ)り
  10.  其(その)弟子(でし)とふて曰(いひ)けるは然(さら)ばエリヤは先(さき)に來(きた)るべしと學者(がくしや)の云(いへ)るは何(なん)ぞや
  11.  イエス答(こたへ)て曰(いひ)けるは實(げ)にエリヤは來(きたり)て萬事(ばんじ)を改(あらた)むべし
  12.  然(され)ど我(われ)なんぢらに告(つげ)んエリヤは既(すで)に來(きたり)しに人(ひと)これを知(しら)ずただ意(こころ)の任(まま)に彼(かれ)を待(あしら)へり此(かく)の如(ごと)く人(ひと)の子(こ)もまた彼等(かれら)より苦難(くるしみ)を受(うく)べし
  13.  是(ここ)に於(おい)て弟子(でし)バプテスマのヨハネを指(さし)て曰(いひ)たまへるを悟(さと)れり
  14.  彼等(かれら)おほくの人(ひと)の居(をる)ところに來(きたり)しに或(ある)人(ひと)イエスの所(もと)にきたり跪(ひざまづ)き
  15.  曰(いひ)けるは主(しゆ)よ我(わが)子(こ)を憫(あはれ)みたまへ癲癇(てんかん)にて屡々(しばしば)火(ひ)に倒(たふ)れ水(みづ)に倒(たふ)れ甚(はなは)だ苦(くるし)めり
  16.  之(これ)を爾(なんぢ)の弟子(でし)に携(つれ)往(ゆき)たれど醫(いや)すことを得(え)ざりき
  17.  イエス答(こたへ)て曰(いひ)けるは噫(ああ)信(しん)なき曲(まが)れる世(よ)なる哉(かな)われ何時(いつ)まで爾曹(なんぢら)と偕(とも)に居(をら)んや我(われ)いつまで爾曹(なんぢら)を忍(しのば)んや彼(かれ)を我(わが)もとに携(つれ)來(きた)れ
  18.  遂(つひ)にイエス鬼(おに)を斥(いまし)め給(たま)へば鬼(おに)いでて其(その)子(こ)この時(とき)より愈(いえ)たり
  19.  其(その)とき弟子(でし)ひそかにイエスに來(きた)り曰(いひ)けるは我儕(われら)これを逐(おひ)出(いだ)すこと能(あた)はざりしは何故(なにゆゑ)ぞ
  20.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)信(しん)なきが故(ゆゑ)なり我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)んもし芥種(からしだね)の如(ごと)き信(しん)あらば此(この)山(やま)に此處(ここ)より彼處(かしこ)に移(うつ)れと命(いふ)とも必(かなら)ず移(うつ)らん又(また)なんぢらに能(あたは)ざること無(なか)るべし
  21.  然(され)ど此(この)類(たぐひ)は祈禱(いのり)と斷食(だんじき)に非(あら)ざれば出(いづ)ることなし
  22.  ガリラヤを周流(めぐれる)ときイエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは人(ひと)の子(こ)人(ひと)の手(て)に解(わた)され
  23.  かつ殺(ころ)されて第三日(みつかめ)に甦(よみがへ)るべし弟子(でし)これを聞(きき)て甚(はなは)だ哀(かなし)めり
  24.  彼等(かれら)カペナウンに來(きた)れるとき納金(をさめきん)を集(あつむ)る者(もの)どもペテロに來(きたり)て曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)の師(し)は納金(をさめきん)を出(いだ)さざる乎(か)
  25.  然(しから)ずと曰(いひ)てペテロ家(いへ)に入(いり)しときイエスまづ彼(かれ)に曰(いひ)けるはシモン爾(なんぢ)は如何(いかに)おもふや世界(せかい)の王(わう)たちは税(ぜい)および貢(みつぎ)を誰(たれ)より徴(とる)か己(おのれ)の子(こ)よりか他(ほか)の者(もの)よりか
  26. ペテロ彼(かれ)に曰(いひ)けるは他(ほか)の人(ひと)より徴(とる)なりイエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは然(さら)ば子(こ)は與(かかは)ることなし
  27. 然(され)ど彼等(かれら)を礙(つまづ)かせざる爲(ため)に爾(なんぢ)海(うみ)に往(ゆき)て釣(つり)を垂(たれ)よ初(はじめ)につる魚(うを)を取(とり)てその口(くち)を啓(ひら)かば金(きん)一(ひとつ)を得(う)べし其(それ)を取(とり)て我(われ)と爾(なんぢ)の爲(ため)に彼等(かれら)に納(をさめ)よ

第十八章

  1. 其(その)とき弟子(でし)イエスに來(きたり)て曰(いひ)けるは天國(てんこく)に於(おい)て大(おほい)なる者(もの)は誰(たれ)ぞや
  2.  イエス嬰兒(をさなご)を召(よび)かれらの中(なか)に立(たて)て
  3. 曰(いひ)けるは我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)んもし改(あらた)まりて嬰兒(をさなご)の若(ごと)くならずば天國(てんこく)に入(いる)ることを得(え)じ
  4. 然(され)ば凡(おほよ)そこの嬰兒(をさなご)の若(ごと)く自(みづか)ら謙(へりくだ)る者(もの)はこれ天國(てんこく)に於(おい)て大(おほい)なる者(もの)なり
  5. 又(また)わが名(な)の爲(ため)に此(かく)の如(ごと)き一人(ひとり)の嬰兒(をさなご)を接(うく)る者(もの)は我(われ)を接(うく)るなり
  6. 然(され)ど我(われ)を信(しん)ずる此(この)小子(ちひさきもの)の一人(ひとり)を礙(つまづ)かする者(もの)は磨石(ひきうす)をその頸(くび)に懸(かけ)られて海(うみ)の深(ふかみ)に沈(しづめ)られん方(かた)なほ益(えき)なるべし
  7. 此(この)世(よ)は禍(わざはひ)なる哉(かな)そは礙(つまづ)かする事(こと)をすればなり礙(つまづ)く事(こと)は必(かなら)ず來(きた)らん然(され)ど礙(つまづき)を來(きた)らす者(もの)は禍(わざはひ)なる哉(かな)
  8. 若(も)し爾(なんぢ)の手(て)なんぢの足(あし)おのれを礙(つまづ)かさば斷(きり)て之(これ)を棄(すて)よ兩手(りやうて)兩足(りやうあし)ありて盡(つき)ざる火(ひ)に投(なげ)入(いれ)られんよりは跛(あしなへ)または殘缺(かたは)にて生(いのち)に入(いる)は善(よき)なり
  9. 若(も)し爾(なんぢ)の眼(め)おのれを礙(つまづ)かさば拔(ぬき)出(いだ)して之(これ)を棄(すて)よ兩眼(りやうめ)ありて地獄(ぢごく)の火(ひ)に投(なげ)入(いれ)れられんよりは一眼(かため)にて生(いのち)に入(いる)は善(よき)なり
  10. 爾曹(なんぢら)この小子(ちひさきもの)の一人(ひとり)をも愼(つつし)みて輕視(あなどる)なかれ我(われ)なんぢらに告(つげ)ん彼等(かれら)が天(てん)の使者(つかひ)は天(てん)にありて天(てん)に在(いま)す吾(わが)父(ちち)の面(かほ)を常(つね)に觀(みれ)ばなり
  11.  それ人(ひと)の子(こ)は亡(ほろび)たる者(もの)を救(すく)はん爲(ため)に來(きた)れり
    爾曹(なんぢら)いかに意(おも)ふや人(ひと)もし百匹(ひやくぴき)の羊(ひつじ)あらんに其(その)一匹(いつぴき)まよはば九(く)十(じふ)九(く)を山(やま)に置(おき)ゆきて迷(まよひ)し一(ひとつ)を尋(たづね)ざる乎(か)
  12. 若(もし)たづねて之(これ)に遇(あは)ば我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん迷(まよは)ざる九(く)十(じふ)九(く)の者(もの)よりも尚(なほ)その一(ひとつ)を喜(よろこば)ん
  13. 是(かく)の如(ごと)くこの小子(ちひさきもの)の一人(ひとり)の亡(ほろぶ)るは天(てん)に在(いま)す爾曹(なんぢら)が父(ちち)の尊旨(みこころ)に非(あら)ず
  14.  もし兄弟(きやうだい)なんぢに罪(つみ)を犯(をかさ)ばその獨(ひとり)ある時(とき)に往(ゆき)て諫(いさめ)よもし爾(なんぢ)の言(ことば)を聽(きか)ばその兄弟(きやうだい)を獲(う)べし
  15.  もし聽(きか)ずば兩(りやう)三人(さんにん)の口(くち)に由(より)て證(あかし)をなし凡(すべて)の言(ことば)を定(さだめ)んが爲(ため)に一人(ひとり)二人(ふたり)を伴(ともな)ひ往(ゆけ)
  16.  もし彼等(かれら)にも聽(きか)ずば教會(けうくわい)に告(つげ)よもし教會(けうくわい)に聽(きか)ずば之(これ)を異邦人(いはうじん)かつ税吏(みつぎとり)のごとき者(もの)とすべし
  17. 我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん凡(おほよ)そ爾曹(なんぢら)が地(ち)に於(おい)て繋(つなぐ)ことは天(てん)に於(おいて)もつなぎ爾曹(なんぢら)が地(ち)に於(おい)て釋(とく)ことは天(てん)に於(おいて)も釋(とく)べし
  18. 我(われ)また爾曹(なんぢら)に告(つげ)んもし爾曹(なんぢら)のうち二人(ふたり)のもの地(ち)に於(おい)て心(こころ)を合(あは)せ何事(なにごと)にても求(もとめ)ば天(てん)に在(いま)す吾(わが)父(ちち)は彼等(かれら)の爲(ため)に之(これ)を成(なし)たまふべし
  19. 蓋(そは)わが名(な)の爲(ため)に二(に)三人(さんにん)の集(あつま)れる處(ところ)には我(われ)も其(その)中(うち)に在(あれ)ばなり
  20. 厥(その)時(とき)ペテロ、イエスに來(きた)りて曰(いひ)けるは主(しゆ)よ幾次(いくたび)まで我(わが)兄弟(きやうだい)の我(われ)に罪(つみ)を犯(をかす)を赦(ゆるす)べきか七(なな)次(たび)まで乎(か)
  21.  イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)に七(なな)次(たび)とは言(いは)じ七(なな)次(たび)を七(しち)十(じふ)倍(ばい)せよ
  22. 是(この)故(ゆゑ)に天國(てんこく)は王(わう)その臣(けらい)と會計(くわいけい)を調(しらべ)んとするが如(ごと)し
  23. 調(しら)べ始(はじめ)しとき千萬(せんまん)金(きん)の負債(ひきおひ)したる者(もの)を王(わう)に曳(ひき)來(きた)りしに
  24. 償(つくの)ひ方(かた)なかりければ之(これ)に命(めい)じて其(その)身(み)その妻孥(つまこ)とあらゆる所有(もちもの)をみな鬻(うり)て償(つくの)へと曰(いへ)り
  25.  その臣(けらい)ひれふして拜(はい)し曰(いひ)けるは請(こふ)われを寛(ゆるく)し給(たま)はば皆(みな)償(つくの)ふべし
  26. 是(ここ)に於(おい)てその臣(けらい)の主(しゆ)憐(あはれ)みて之(これ)を釋(とき)その負債(ひきおひ)を免(ゆる)したり
  27. 其(その)臣(けらい)いでて己(おのれ)より銀(ぎん)一百(いつぴやく)の負債(ひきおひ)したる友(とも)に遇(あひ)ければ之(これ)を執(とら)へ喉(のんど)をとり負債(ひきおひ)を返(かへ)せと曰(いふ)
  28.  その友(とも)足下(あしもと)に俯伏(ひれふし)て求(ねがひ)いひけるは我(われ)を寛(ゆるく)し給(たま)はば皆(みな)償(つくの)ふべし
  29. 然(しか)るに之(これ)を肯(うけが)はずして往(ゆき)その負債(ひきおひ)を償(つくの)ふまで彼(かれ)を獄(ひとや)に入(いれ)ぬ
  30. 外(ほか)の友(とも)その爲(なせ)る事(こと)を見(み)て甚(はなは)だ哀(かなし)み往(ゆき)て此(この)事(こと)を皆(みな)その主(しゆ)に告(つげ)しかば
  31. 主(しゆ)かれを召(よび)て曰(いひ)けるは惡(あし)き臣(けらい)よ爾(なんぢ)われに求(ねがひ)しに因(より)て我(われ)その負債(ひきおひ)を悉(ことごと)く免(ゆる)したり
  32. 我(われ)なんぢを憐(あはれ)みし如(ごと)く爾(なんぢ)も亦(また)友(とも)を憐(あはれ)むべきに非(あら)ずや
  33.  その主(しゆ)いかりて負債(ひきおひ)をみな償(つくの)ふまで彼(かれ)を獄吏(ひとやつかさ)に付(わた)せり
  34. 若(もし)おのおの其(その)心(こころ)より兄弟(きやうだい)を赦(ゆるさ)ずば我(わ)が天(てん)の父(ちち)も亦(また)なんぢらに此(かく)の如(ごと)く行(なし)給(たま)ふべし

第十九章

  1.  イエス此等(これら)の事(こと)を言(いひ)畢(をは)りしときガリラヤを去(さり)てヨルダンの外(むかふ)ユダヤの境(さかひ)に至(いた)りけるに
  2. 多(おほく)の人々(ひとびと)從(したが)ひしかば此(この)處(ところ)にて彼等(かれら)を醫(いや)し給(たま)へり
  3.  パリサイの人(ひと)きたりてイエスを試(こころ)み曰(いひ)けるは人(ひと)なにの故(ゆゑ)に係(かかは)らず其(その)妻(つま)を出(いだ)すは宜(よき)か
  4. 答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは元始(はじめ)に人(ひと)を造(つく)り給(たま)ひし者(もの)は之(これ)を男女(なんによ)に造(つく)れり
  5. 是(この)故(ゆゑ)に人(ひと)父母(ちちはは)を離(はな)れて其(その)妻(つま)に合(あひ)二人(ふたり)のもの一體(いつたい)と爲(なる)なりと云(いへ)るを未(いま)だ讀(よま)ざるか
  6. 然(され)ばはや二(ふたつ)には非(あら)ず一體(いつたい)なり神(かみ)の合(あは)せ給(たま)へる者(もの)は人(ひと)これを離(はな)すべからず
  7.  イエスに曰(いひ)けるは然(され)ば離縁状(りえんじやう)を予(あたへ)て妻(つま)を出(いだ)せとモーセが命(めい)ぜしは何(なん)ぞや
  8. 彼等(かれら)に曰(いひ)けるはモーセは爾曹(なんぢら)の心(こころ)の不情(つれなき)に因(より)て妻(つま)を出(いだ)すことを容(ゆる)したる也(なり)されど元始(はじめ)は如此(かく)あらざりき
  9. 我(われ)なんぢらに告(つげ)んもし姦淫(かんいん)の故(ゆゑ)ならで其(その)妻(つま)を出(いだ)し他(ほか)の婦(をんな)を娶(めと)る者(もの)は姦淫(かんいん)を行(おこな)ふなり又(また)いだされる婦人(をんな)を娶(めと)る者(もの)も姦淫(かんいん)を行(おこな)ふなり
  10. 弟子(でし)等(たち)イエスに曰(いひ)けるは若(も)し人(ひと)妻(つま)に於(おい)て此(かく)の如(ごと)くば娶(めとら)らざるに若(しか)ず
  11. 彼等(かれら)に曰(いひ)けるは此(この)言(ことば)は人(ひと)みな受(うけ)納(いる)ること能(あた)はず唯(ただ)賦(さづけ)られたる者(もの)のみ之(これ)を爲(なし)うべし
  12. それ母(はは)の腹(はら)より生來(うまれつき)たる寺人(じじん)あり又(また)人(ひと)にせられたる寺人(じじん)あり又(また)天國(てんこく)の爲(ため)に自(みづか)らなれる寺人(じじん)あり之(これ)を受(うけ)納(いる)ることを得(うる)ものは受(うけ)納(いる)べし
  13. 其(その)とき人々(ひとびと)イエスの手(て)を按(つけ)て祈(いの)らんことを求(ねが)ひ嬰兒(をさなご)を彼(かれ)に携(つれ)來(きた)りければ弟子(でし)是(これ)を阻(とどめ)たり
  14. イエス曰(いひ)けるは嬰兒(をさなご)を容(ゆる)せ我(われ)に來(きた)ることを禁(いま)しむる勿(なか)れ天國(てんこく)にをる者(もの)は此(かく)の如(ごと)き者(もの)なり
  15. 即(すなは)ち彼等(かれら)に手(て)を按(つけ)て此(ここ)を去(さり)ぬ
  16. 或(ある)人(ひと)きたりて彼(かれ)に曰(いひ)けるは善(よき)師(し)よ我(われ)かぎりなき生(いのち)を得(え)んが爲(ため)には何(なに)の善(よき)事(こと)を行(なす)べきか
  17. 彼(かれ)に曰(いひ)けるは何故(なにゆゑ)われを善(よき)と稱(いふ)や一人(ひとり)の外(ほか)に善(よき)者(もの)はなし即(すなは)ち神(かみ)なり若(も)し生命(いのち)に入(いら)んと欲(おも)はば誡(いましめ)を守(まも)るべし
  18. 彼(かれ)こたへけるは何(なに)かイエス曰(いひ)けるは殺(ころ)す勿(なか)れ姦淫(かんいん)する勿(なか)れ盜(ぬす)む勿(なか)れ妄(いつは)りの證(あかし)を立(たつ)る勿(なか)れ
  19. 爾(なんぢ)の父(ちち)と母(はは)を敬(うやま)へ又(また)己(おのれ)の如(ごと)く爾(なんぢ)の隣(となり)を愛(あい)すべし
  20. 少(わかき)者(もの)かれに曰(いひ)けるは是(これ)みな我(われ)いとけなきより守(まも)れるものなり何(なに)の虧(かけ)たるところ我(われ)にある乎(や)
  21.  イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは全(まつた)からん事(こと)を欲(おも)はば往(ゆき)て爾(なんぢ)が所有(もちもの)を售(うり)て貧(まづしき)者(もの)に施(ほどこ)せ然(さす)れば天(てん)に於(おい)て財(たから)あらん而(しか)して來(きた)り我(われ)に從(したが)へ
  22. 少(わかき)者(もの)この言(ことば)を聞(きき)て憂(うれ)へ去(さり)ぬ彼(かれ)の産業(さんげふ)おほいなりければ也(なり
  23.  イエスその弟子(でし)に曰(いひ)けるは誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん富(とめる)者(もの)は天國(てんこく)に入(いる)こと難(かた)し
  24.  また爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん富(とめる)者(もの)の神(かみ)の國(くに)に入(いる)よりは駱駝(らくだ)の針(はり)の孔(あな)を穿(とほ)るは却(かへつ)て易(やす)し
  25. 弟子(でし)之(これ)を聞(きき)て甚(いた)く驚(おどろ)き曰(いひ)けるは然(さら)ば誰(たれ)か救(すくひ)を受(うく)べき乎(や)
  26.  イエス彼等(かれら)を見(み)て曰(いひ)けるは是(これ)人(ひと)には能(あた)はざる所(ところ)なり然(され)ど神(かみ)には能(あた)はざる所(ところ)なし
  27. 此(この)ときペテロ答(こたへ)てイエスに曰(いひ)けるは我儕(われら)一切(いつさい)を棄(すて)て爾(なんぢ)に從(したが)へり然(され)ば何(なに)を得(う)べき乎(か)
  28.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん我(われ)に從(したが)へる爾曹(なんぢら)は世(よ)あらたまり人(ひと)の子(こ)榮光(えいくわう)の位(くらゐ)に坐(ざ)する時(とき)なんぢらも十二(じふに)の位(くらゐ)に坐(ざ)してイスラエルの十二(じふに)の支派(わかれ)を鞫(さばく)べし
  29. 凡(すべ)て我(わが)名(な)の爲(ため)に家宅(いへ)あるひは兄弟(きやうだい)あるひは姉妹(しまい)あるひは父(ちち)あるひは母(はは)あるひは妻(つま)あるひは子(こ)あるひは田疇(たはた)を棄(すつ)る者(もの)は百(ひやく)倍(ばい)を受(うけ)かつ窮(かぎり)なき生(いのち)を嗣(つが)ん
  30. 多(おほく)の先(さき)なる者(もの)は後(あと)になり後(あと)なる者(もの)は先(さき)になるべし

第二十章

  1.  それ天國(てんこく)は朝(あさ)はやく出(いで)て葡萄園(ぶだうばたけ)に工人(はたらくもの)を雇(やと)ふ主人(あるじ)の如(ごと)し
  2. 工人(はたらくもの)には一日(いちにち)に銀(ぎん)一(いち)枚(まい)を予へ(あた)んと約束(やくそく)をなし彼等(かれら)を葡萄園(ぶだうばたけ)に遣(つかは)せり
  3.  また九(く)時(じ)ごろ出(いで)て街(ちまた)に徒(むなし)く立(たて)る者(もの)を見(み)て
  4. 爾曹(なんぢら)も葡萄園(ぶだうばたけ)にゆけ相當(さうたう)の價(あたひ)を予(あたへ)んと彼等(かれら)に曰(いひ)ければ則(すなは)ち往(ゆけ)り
  5.  また十二(じふに)時(じ)と三(さん)時(じ)ごろ出(いで)て前(まへ)の如(ごと)く行(なせ)り
  6. 五(ご)時(じ)ごろ出(いで)て又(また)ほかの立(たて)る者(もの)に遇(あひ)て曰(いひ)けるは何(なに)ゆゑ終日(ひねもす)ここに徒(むなし)く立(たつ)や
  7. 之(これ)に答(こたへ)て曰(いひ)けるは我儕(われら)を雇(やと)ふ物(もの)なきに因(より)てなり彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)も葡萄園(ぶだうばたけ)にゆけ相當(さうたう)の價(あたひ)を得(う)べし
  8. 日(ひ)暮(くる)るとき葡萄園(ぶだうばたけ)の主人(あるじ)その家宰(いへつかさ)に曰(いひ)けるは勞力(はたらき)たる者(もの)等(ども)を呼(よび)て後(のち)に雇(やと)へる者(もの)を始(はじめ)とし先(さき)の者(もの)にまで價(あたひ)を給(はら)へよ
  9. 五(ご)時(じ)ごろ雇(やと)はれし者(もの)ども來(きた)りて銀(ぎん)一(いち)枚(まい)づつを受(うけ)たり
  10. 先(さき)の者(もの)ども來(きた)りて我儕(われら)は多(おほ)く受(うく)るならんと意(おも)ひしに亦(また)銀(ぎん)一(いち)枚(まい)づつを受(うく)
  11. これを受(うけ)て主人(あるじ)を怨(うらみ)みつぶやきけるは
  12. この後至者(のちのもの)の勞力(はたらき)たるは一(いち)時(じ)ばかりなるに終日(ひねもす)くるしみを任(おひ)あつさに當(あへ)る我儕(われら)と均(ひと)しく之(これ)をなせり
  13. 主人(あるじ)その一人(ひとり)に答(こたへ)て曰(いひ)けるは友(とも)よ我(われ)なんぢに不義(ふぎ)をせず爾(なんぢ)と銀(ぎん)一(いち)枚(まい)の約束(やくそく)をなしたるに非(あら)ずや
  14. 爾(なんぢ)のものを取(とり)て往(ゆけ)われ亦(また)この後至者(のちのもの)にも爾(なんぢ)の如(ごと)く予(あた)ふべし
  15. 我(わが)物(もの)を以(も)て我(わが)おもふ如(ごと)く行(なす)は宜(よか)らず乎(や)わが善(よき)に因(より)て爾(なんぢ)の目(め)あしき乎(か)
  16. 此(かく)の如(ごと)く後(あと)の者(もの)は先(さき)に先(さき)の者(もの)は後(あと)になるべし夫(それ)よばるる者(もの)は多(おほ)しと雖(いへど)も選(えらば)るる者(もの)は少(すく)なし
  17.  イエス、エルサレムに上(のぼ)るとき途間(みち)にて人(ひと)を離(はな)れ十二(じふに)弟子(でし)を伴(ともな)ひて彼等(かれら)に曰(いひ)けるは
  18. 我儕(われら)エルサレムに上(のぼ)り人(ひと)の子(こ)は祭司(さいし)の長(をさ)と學者(がくしや)等(たち)に賣(わた)されん彼等(かれら)これを死罪(しざい)に定(さだ)め
  19.  また凌辱(なぶり)鞭(むちう)ち十字架(じふじか)に釘(つけ)ん爲(ため)に異邦人(いはうじん)に解(わた)すべし又(また)第三日(みつかめ)に甦(よみが)へるべし
  20. 其(その)時(とき)ゼベダイの子(こ)等(たち)の母(はは)その子(こ)と偕(とも)にイエスに來(きた)り拜(はい)して彼(かれ)に求(もとむ)ること有(あり)ければ
  21. 之(これ)に曰(いひ)けるは何(なに)を欲(ねが)ふかイエスに曰(いひ)けるは此(この)二人(ふたり)の我(わが)子(こ)を爾(なんぢ)の國(くに)に於(おい)て一人(ひとり)は爾(なんぢ)の右(みぎ)一人(ひとり)は爾(なんぢ)の左(ひだり)に坐(すわ)ることを命(めい)ぜよ
  22.  イエス答(こたへ)て曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)は求(ねがふ)ところを知(しら)ず爾曹(なんぢら)は我(わ)が飮(のま)んとする杯(さかづき)をのみ又(また)わが受(うけ)んとするバプテスマを受(うけ)得(う)るや彼等(かれら)いひけるは能(よく)すべし
  23.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは誠(まこと)に爾曹(なんぢら)は我(わ)が杯(さかづき)を飮(のみ)また我(わが)うくるバプテスマを受(うく)べし然(され)ど我(わ)が右左(みぎひだり)に坐(すわ)ることは我(わ)が賜(あたふ)べきに非(あら)ず只(ただ)わが父(ちち)に備(そなへ)られたる者(もの)は賜(あたへ)らるべし
  24. 十人(じふにん)の弟子(でし)これを聞(きき)て二人(ふたり)の兄弟(きやうだい)を憤(いきどほ)れり
  25.  イエス彼等(かれら)を召(よび)て曰(いひ)けるは異邦(いはう)の領主(りやうしゆ)はその民(たみ)を主(つかさ)どり大人(おほいなるもの)どもは彼等(かれら)の上(うへ)に權(けん)を操(とる)これ爾曹(なんぢら)が知(しる)ところ也(なり)
  26. 然(され)ど爾曹(なんぢら)の中(うち)にては然(しか)すべからず爾曹(なんぢら)のうち大(おほい)ならんと欲(おも)ふ者(もの)は爾曹(なんぢら)に役(つかは)るる者(もの)となるべし
  27.  また爾曹(なんぢら)のうち首(かしら)たらんと欲(おも)ふ者(もの)は爾曹(なんぢら)の僕(しもべ)となるべし
  28. 此(かく)の如(ごと)く人(ひと)の子(こ)の來(きた)るも人(ひと)を役(つか)ふ爲(ため)には非(あら)ず反(かへつ)て人(ひと)に役(つか)はれ又(また)おほくの人(ひと)に代(かはり)て生命(いのち)を予(あたへ)その贖(あがなひ)とならん爲(ため)なり
  29. 彼等(かれら)エリコを出(いで)し時(とき)おほくの人々(ひとびと)イエスに從(したが)へり
  30. 二人(ふたり)の瞽者(めしひ)路(みち)の旁(かたはら)に坐(すわり)をりしがイエスの過(すぐ)ると聞(きき)て呼叫(さけび)いひけるはダビデの裔(こ)主(しゆ)よ我儕(われら)を憫(あはれ)み給(たま)へ
  31. 衆人(ひとびと)これに默(しづま)れと戒(いまし)むれども愈(いよいよ)さけび曰(いひ)けるはダビデの裔(こ)主(しゆ)よ我儕(われら)を憫(あはれ)みたまへ
  32.  イエス立止(たちどまり)て之(これ)を呼(よび)いひけるは爾曹(なんぢら)われに何(なに)を爲(せ)られんと願(ねが)ふや
  33.  イエスに曰(いひ)けるは主(しゆ)よ我儕(われら)目(め)の啓(ひらか)んことを願(ねが)ふ
  34.  イエス憫(あはれ)みて其(その)目(め)に手(て)を按(つけ)ければ直(ただち)に見(みる)ことを得(え)イエスに從(したが)へり

第二十一章

  1.  かれら橄欖山(かんらんざん)のベテパゲに至(いた)りエルサレムに近(ちかづ)ける時(とき)イエス二人(ふたり)の弟子(でし)を遣(つかは)さんとして
  2. 彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)むかふの村(むら)に往(ゆけ)やがて繋(つなぎ)たる驢馬(ろば)の其(その)子(こ)と偕(とも)にあるに遇(あは)ん夫(それ)を解(とき)て我(われ)に牽(ひき)きたれ
  3. 若(もし)なんぢらに何(なに)とか言(いふ)ものあらば主(しゆ)の用(よう)なりと曰(いへ)さらば直(ただち)に之(これ)を遣(つかは)すべし
  4. 預言者(よげんしや)の言(ことば)に視(み)よ爾(なんぢ)の王(わう)は柔和(にうわ)にして驢馬(ろば)すなはち驢馬(ろば)の子(こ)に乘(のり)なんぢに來(きた)るとシヲンの女(むすめ)に告(つげ)よと
  5. 云(いへ)るに應(かなは)せん爲(ため)に如此(かく)なせる也(なり)
  6. 弟子(でし)ゆきてイエスの命(めい)ぜし如(ごと)くなし
  7. 驢馬(ろば)と其(その)子(こ)を牽(ひき)きたり己(おのれ)の衣(ころも)をその上(うへ)に置(おき)ければイエスこれに乘(のれ)り
  8. 衆人(ひとびと)おほくは其(その)衣(ころも)を途(みち)に布(しき)あるひは樹枝(きのえだ)を伐(きり)て途(みち)に布(しき)ぬ
  9. かつ前(まへ)にゆき後(あと)に從(したが)ふ人々(ひとびと)呼(よび)いひけるはダビデの裔(こ)ホザナよ主(しゆ)の名(な)に託(より)て來(きた)る者(もの)は福(さいはひ)なり至上(いとたかき)處(ところ)にホザナよ
  10.  イエス、エルサレムに至(いた)れるとき都城(みやこ)こぞりて竦動(さわだち)いひけるは是(これ)誰(たれ)ぞや
  11. 衆人(ひとびと)いひけるは此(こ)はガリラヤのナザレより出(いで)たる預言者(よげんしや)イエスなり
  12.  イエス神(かみ)の殿(みや)に入(いり)て其(その)中(うち)なる凡(すべて)の賣買(うりかひ)する者(もの)を逐(おひ)出(いだ)し兌銀者(りやうがへするもの)の案(だい)鴿(はと)をうる者(もの)の椅子(こしかけ)を倒(たふ)し
  13. 彼等(かれら)に曰(いひ)けるは我(わが)家(いへ)は祈禱(いのり)の家(いへ)と稱(となへ)らるべしと録(しる)さる然(しか)るに爾曹(なんぢら)これを盜賊(ぬすびと)の巣(す)となせり
  14. 瞽者(めしひ)跛者(あしなへ)の人々(ひとびと)殿(みや)に入(いり)てイエスに來(きた)りければ之(これ)を醫(いや)しぬ
  15. 祭司(さいし)の長(をさ)と學者(がくしや)たち其(その)行(なし)たまへる奇事(ふしぎなるわざ)を見(み)また兒童輩(こどもら)の殿(みや)にて呼(よば)はりダビデの裔(こ)ホザナよと云(いふ)を聞(きき)て怒(いかり)を含(ふくみ)
  16. イエスに曰(いひ)けるは彼等(かれら)が言(いふ)ことを聞(きく)やイエス答(こたへ)て曰(いひ)けるは然(しか)り嬰兒(をさなご)乳哺者(ちのみご)の口(くち)に讚美(さんび)を備(そなへ)たりと録(しる)されしを未(いま)だ讀(よま)ざる乎(か)
  17. 遂(つひ)に彼等(かれら)を離(はな)れ都城(みやこ)を出(いで)てベタニヤに往(ゆき)そこに宿(やど)れり
  18. 翌(あくる)あさ都城(みやこ)へ返(かへ)るとき飢(うゑ)ければ
  19. 路(みち)の旁(ほとり)にある一(ひとつ)の無花果(いちじく)の樹(き)を見(み)て其(その)處(ところ)に來(きた)りしに葉(は)の他(ほか)に何(なに)も見(みえ)ざりしかば今(いま)よりのち永久(いつまで)も果(み)を結(むす)ぶことを得(え)ざれと之(これ)に曰(いひ)たまひければ無花果(いちじく)立刻(たちどころ)に枯(かれ)ぬ
  20. 弟子(でし)これを見(み)て奇(あやし)み曰(いひ)けるは無花果(いちじく)の枯(かる)ること何(いか)に速(はやき)や
  21.  イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)んもし信仰(しんかう)ありて疑(うたが)はずば此(この)無花果(いちじく)に於(おけ)るが如(ごとき)耳(のみ)ならず此(この)山(やま)に命(めい)じ此(ここ)より移(うつ)されて海(うみ)に入(いれ)よと云(いふ)とも亦(また)成(なら)ん
  22. 且(かつ)なんぢら信(しん)じて祈(いの)らば求(ねが)ふ所(ところ)ことごとく得(う)べし
  23.  イエス殿(みや)に入(いり)て教(をしへ)たるとき祭司(さいし)の長(をさ)および民(たみ)の長老(としより)たち來(きた)り曰(いひ)けるは何(なに)の權威(けんゐ)を以(も)て此(この)事(こと)をなすや誰(たが)この權威(けんゐ)を爾(なんぢ)に予(あたへ)しや
  24.  イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは我(われ)も一言(ひとこと)なんぢらに問(とは)ん我(われ)にその事(こと)を告(つげ)なば我(われ)も何(なに)の權威(けんゐ)をもて之(これ)を行(なす)といふことを爾曹(なんぢら)に曰(いふ)べし
  25.  ヨハネのバプテスマは何處(いづこ)よりぞ天(てん)よりか人(ひと)よりか彼等(かれら)たがひに論(ろん)じ曰(いひ)けるは若(も)し天(てん)よりと云(いは)ば然(さら)ば何(なに)ゆゑ信(しん)ぜざるかと云(いは)ん
  26.  もし人(ひと)よりと云(いは)ば我儕(われら)民(たみ)を畏(おそ)る蓋(そは)みなヨハネを預言者(よげんしや)と爲(すれ)ばなり
  27. 遂(つひ)に答(こたへ)て知(しら)ずと曰(いふ)イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは我(われ)も何(なに)の權威(けんゐ)を以(も)て之(これ)を行(なす)か爾曹(なんぢら)に語(かた)らじ
  28. 爾曹(なんぢら)いかに意(おも)ふや或(ある)人(ひと)二人(ふたり)の子(こ)ありしが長子(あに)に來(きた)りて曰(いひ)けるは子(こ)よ今日(けふ)わが葡萄園(ぶだうばたけ)に往(ゆき)て働(はたら)け
  29. 答(こたへ)て否(いな)と曰(いひ)しがのち悔(くい)て往(ゆき)たり
  30.  また次子(おとうと)にも前(まへ)の如(ごと)く曰(いひ)けるに答(こたへ)て君(きみ)よ我(われ)往(ゆく)べしと曰(いひ)しが遂(つひ)に往(ゆか)ざりき
  31. 此(この)二人(ふたり)のもの孰(いづれ)か父(ちち)の旨(むね)に遵(したが)ひし彼等(かれら)いひけるは長子(あに)なりイエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん税吏(みつぎとり)および娼妓(あそびめ)は爾曹(なんぢら)より先(さき)に神(かみ)の國(くに)に入(いる)べし
  32. 夫(それ)ヨハネ義(ただしき)道(みち)をもて來(きた)りしに爾曹(なんぢら)これを信(しん)ぜず税吏(みつぎとり)娼妓(あそびめ)は之(これ)を信(しん)じたり爾曹(なんぢら)これを見(み)てなほ悔(くい)改(あらた)めず彼(かれ)を信(しん)ぜざりき
  33.  また一(ひとつ)の譬(たとへ)を聞(きけ)ある家(いへ)の主人(あるじ)葡萄園(ぶだうばたけ)を樹(つく)り籬(まがき)を環(めぐ)らし其(その)中(なか)に酒榨(さかぶね)をほり塔(ものみ)をたて農夫(のうふ)に貸(かし)て他(ほか)の國(くに)へ往(ゆき)しが
  34. 果期(みのりどき)ちかづきければ其(その)果(み)を收(とら)ん爲(ため)に僕(しもべ)を農夫(のうふ)のもとに遣(つかは)せり
  35. 農夫(のうふ)ども其(その)僕(しもべ)等(たち)を執(とら)へ一人(ひとり)を鞭(むちう)ち一人(ひとり)を殺(ころ)し一人(ひとり)を石(いし)にて撃(うて)り
  36.  また他(ほか)の僕(しもべ)を前(まへ)よりも多(おほ)く遣(つかは)しけるに之(これ)にも前(まへ)の如(ごと)くなせり
  37. 我(わが)子(こ)は敬(うやま)ふならんと謂(いひ)て終(つひ)に其(その)子(こ)を遣(つかは)ししに
  38. 農夫(のうふ)等(ども)その子(こ)を見(み)て互(たがひ)に曰(いひ)けるは此(こ)は嗣子(あとつぎ)なり率(いで)これを殺(ころ)して其(その)産業(さんげふ)をも奪(とる)べしと
  39. 即(すなは)ち之(これ)を執(とら)へ葡萄園(ぶだうばたけ)より逐(おひ)出(いだ)して殺(ころ)せり
  40. 然(され)ば葡萄園(ぶだうばたけ)の主人(あるじ)きたらん時(とき)にこの農夫(のうふ)に何(なに)を爲(なす)べき乎(か)
  41. 彼等(かれら)イエスに曰(いひ)けるは此等(これら)の惡人(あしきもの)を甚(いた)く討(うち)滅(ほろぼ)し期(とき)に及(および)てその果(み)を納(をさむ)る他(ほか)の農夫(のうふ)に葡萄園(ぶだうばたけ)を貸(かし)予(あた)ふべし
  42.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは聖書(せいしよ)に工匠(いへつくり)の棄(すて)たる石(いし)は家(いへ)の隅(すみ)の首石(をやいし)となれり是(これ)主(しゆ)の行(なし)給(たまへ)ることにして我儕(われら)の目(め)に奇(あやし)とする所(ところ)なりと録(しる)されしを未(いま)だ讀(よま)ざる乎(か)
  43. 是(この)故(ゆゑ)に我(われ)なんぢらに告(つげ)ん神(かみ)の國(くに)を爾曹(なんぢら)より奪(うばひ)その果(み)を結(むす)ぶ民(たみ)に予(あたへ)らるべし
  44.  この石(いし)の上(うへ)に墜(おつ)るものは壞(やぶれ)この石(いしの)上(うへ)に墜(おつ)れば其(その)もの碎(くだ)かるべし
  45. 祭司(さいし)の長(をさ)等(たち)およびパリサイの人かれの譬(たとへ)を聞(きき)おのれらを指(さし)て言(いへ)るを識(しり)
  46.  イエスを執(とら)へんと欲(おも)ひ謀(はかり)しかど唯(ただ)民(たみ)を畏(おそれ)たり蓋(そは)人々(ひとびと)かれを預言者(よげんしや)とすれば也(なり

第二十二章

  1.  イエス彼等(かれら)に答(こたへ)てまた譬(たとへ)を語(かた)りけるは
  2.  天國(てんこく)は或(ある)王(わう)その子(こ)の爲(ため)に婚筵(こんえん)を設(まうく)るが如(ごと)し
  3.  婚筵(こんえん)に請(まねき)おける者(もの)を迎(むかへ)ん爲(ため)に僕(しもべ)たちを遣(つかは)ししかど彼等(かれら)きたることを好(この)まず
  4.  又(また)ほかの僕(しもべ)を遣(つかは)さんとして曰(いひ)けるは我(わ)が筵(ふるまひ)すでに備(そなは)れり我(わ)が牛(うし)また肥(こえたる)畜(けもの)をも宰(ほふ)りて盡(ことごと)く備(そなは)りたれば婚筵(こんえん)に來(きた)れと請(まねき)たる者(もの)に言(いへ)
  5.  然(しかれ)ども彼等(かれら)かへりみずして去(さり)ぬ其(その)一人(ひとり)は己(おのれ)の田(はたけ)にゆき一人(ひとり)は己(おのれ)の貿易(あきなひ)に往(ゆけ)り
  6.  他(ほか)の者(もの)等(ども)はその僕(しもべ)を執(とら)へ辱(はづか)しめて殺(ころ)せり
  7.  王(わう)これを聞(きき)て怒(いか)り軍勢(ぐんぜい)を遣(つかは)して其(その)殺(ころ)せる者(もの)を亡(ほろぼ)し又(また)その邑(まち)を燒(やき)たり
  8.  是(ここ)に於(おい)てその僕(しもべ)等(ども)に曰(いひ)けるは婚筵(こんえん)すでに備(そなは)れども請(まねき)たる者(もの)は客(きやく)となるに堪(たへ)ざる者(もの)なれば
  9.  衢(ちまた)に往(ゆき)て遇(あふ)ほどの者(もの)を婚筵(こんえん)に請(まね)け
  10.  その僕(しもべ)途(みち)に出(いで)て善(よき)者(もの)をも惡(あしき)者(もの)をも遇(あふ)ほどの者(もの)を悉(ことごと)く集(あつめ)ければ婚筵(こんえん)の客(きやく)充滿(じゆうまん)す
  11.  王(わう)客(きやく)を見(み)んとて來(きた)りけるに茲(ここ)に一人(ひとり)の禮服(れいふく)を着(き)ざる者(もの)あるを見(み)て
  12.  之(これ)に曰(いひ)けるは友(とも)よ如何(いか)なれば禮服(れいふく)を着(き)ずして此處(ここ)に來(きた)る乎(か)かれ默然(もくねん)たり
  13.  遂(つひ)に王(わう)僕(しもべ)に曰(いひ)けるは彼(かれ)の手足(てあし)を縛(しば)りて外(そと)の幽暗(くらき)に投(なげ)いだせ其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)また切齒(はがみ)すること有(あら)ん
  14.  それ召(よば)るる者(もの)は多(おほ)しと雖(いへど)も選(えらば)るる者(もの)は少(すく)なし
  15.  此(この)時(とき)パリサイの人(ひと)いでて如何(いかに)してか彼(かれ)を言(いひ)誤(あやま)らせんと相(あひ)謀(はか)り
  16.  その弟子(でし)とヘロデの黨(ともがら)を遣(つかは)して云(いは)せけるは師(し)よ爾(なんぢ)は眞(まこと)なる者(もの)なり眞(まこと)をもて神(かみ)の道(みち)を教(をしふ)また誰(たれ)にも偏(かたよ)らざることを我儕(われら)は知(しる)そは貌(かたち)に由(より)て人(ひと)を取(とら)ざれば也(なり)
  17.  然(され)ば貢(みつぎ)をカイザルに納(をさむ)るは善(よき)や惡(あしき)や爾(なんぢ)いかに意(おも)ふか我儕(われら)に告(つげ)よ
  18.  イエスその惡(あく)を知(しり)て曰(いひ)けるは僞善者(ぎぜんしや)よ何(なん)ぞ我(われ)を試(こころ)むるや
  19.  貢(みつぎ)の銀錢(かね)を我(われ)に見(み)せよ彼等(かれら)デナリ一(ひとつ)をイエスに携(もち)來(きた)りしに
  20.  之(これ)に曰(いひ)けるは此(この)像(かた)と號(しるし)は誰(たれ)か
  21.  答(こたへ)てカイザル也(なり)といふ是(ここ)に於(おい)てイエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは然(さら)ばカイザルの物(もの)はカイザルに歸(かへ)しまた神(かみ)の物(もの)は神(かみ)に歸(かへ)すべし
  22.  彼等(かれら)之(これ)をきき奇(き)としてイエスを去(さり)ゆけり
  23.  復生(よみがへり)なしと言(いひ)なせるサドカイの人(ひと)この日(ひ)イエスにきたり問(とふ)て
  24.  曰(いひ)けるは師(し)よモーセの云(いへ)るに人(ひと)もし子(こ)なくして死(しな)ば兄弟(きやうだい)その妻(つま)を娶(めと)りて子(こ)をうみ兄弟(きやうだい)の後(あと)を嗣(つが)すべしと
  25.  茲(ここ)に我儕(われら)の中(うち)に兄弟(きやうだい)七人(しちにん)ありしが兄(あに)めとりて死(しに)子(こ)なきが故(ゆゑ)に其(その)妻(つま)を次子(おとうと)に遺(おく)れり
  26.  その二(に)その三(さん)その七(しち)まで皆(みな)然(しか)す
  27.  後(のち)つひに婦(をんな)もまた死(しに)たり
  28.  甦(よみがへ)るときは此(この)婦(をんな)七人(しちにん)のうち誰(たれ)の妻(つま)と爲(なる)べきか是(これ)みな彼(かれ)を娶(めとり)し者(もの)なれば也(なり)
  29.  イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)聖書(せいしよ)をも神(かみ)の能力(ちから)をも知(しら)ざるに由(より)て謬(あやま)れり
  30.  それ甦(よみがへ)るときは娶(めと)らず嫁(とつが)ず天(てん)にある神(かみ)の使(つかひ)等(たち)の如(ごと)し
  31.  死(しに)し者(もの)の甦(よみがへ)ることに就(つき)ては爾曹(なんぢら)に神(かみ)の告(つげ)たまひし言(ことば)に
  32.  我(われ)はアブラハムの神(かみ)イサクの神(かみ)ヤコブの神(かみ)なりとあるを未(いま)だ讀(よま)ざる乎(か)そもそも神(かみ)は死(しに)し者(もの)の神(かみ)に非(あら)ず生(いけ)る者(もの)の神(かみ)なり
  33.  人々(ひとびと)これを聞(きき)て其(その)訓(をしへ)を驚(おどろ)けり
  34.  イエス、サドカイの人(ひと)をして口(くち)を塞(ふさ)がしめたりを聞(きき)てパリサイの人(ひと)一(ひとつ)處(ところ)に集(あつま)りけるが
  35.  其(その)中(うち)なるひとりの教法師(けうはふし)イエスを試(こころ)みん爲(ため)に問(とふ)て曰(いひ)けるは
  36.  師(し)よ律法(おきて)のうち何(いづれ)の誡(いましめ)か大(おほい)なる
  37.  イエス答(こたへ)けるは爾(なんぢ)心(こころ)を盡(つく)し精神(せいしん)を盡(つく)し意(こころばせ)を盡(つく)し主(しゆ)なる爾(なんぢ)の神(かみ)を愛(あい)すべし
  38.  これ第一(だいいち)にして大(おほい)なる誡(いましめ)なり
  39.  第二(だいに)も亦(また)これに同(おな)じ己(おのれ)の如(ごと)く爾(なんぢ)の隣(となり)を愛(あい)すべし
  40.  凡(すべて)の律法(おきて)と預言者(よげんしや)は此(この)二(ふたつ)の誡(いましめ)に因(よれ)り
  41.  パリサイの人(ひと)の集(あつま)れる時(とき)イエス彼等(かれら)に問(とひ)て曰(いひ)けるは
  42.  爾曹(なんぢら)キリストについて如何(いかに)おもふ乎(や)これ誰(たれ)の子(こ)なるか彼等(かれら)イエスに曰(いひ)けるはダビデの裔(こ)なり
  43.  彼等(かれら)に曰(いひ)けるは然(さら)ばダビデ靈(みたま)に感(かん)じて何故(なにゆゑ)これを主(しゆ)と稱(とな)へし乎(や)ダビデ言(いふ)
  44.  主(しゆ)わが主(しゆ)に曰(いひ)けるは我(われ)なんぢの敵(てき)を爾(なんぢ)の足凳(あしだい)となすまで我(わが)みぎに坐(ざ)すべしと
  45.  然(され)ばダビデ既(すで)に之(これ)を主(しゆ)と稱(となへ)たれば如何(いかで)その子(こ)ならん乎(や)
  46.  誰(たれ)一言(ひとこと)これに答(こたふ)ること能(あた)はず此(この)日(ひ)より敢(あへ)て又(また)とふ者(もの)なかりき

第二十三章

  1.  厥(その)時(とき)イエス人々(ひとびと)と弟子(でし)とに告(つげ)て曰(いひ)けるは
  2.  學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)はモーセの位(くらゐ)に坐(ざ)す
  3.  故(ゆゑ)に凡(すべ)て彼等(かれら)が爾曹(なんぢら)に言(いふ)ところを守(まもり)て行(おこな)ふべし然(され)ど彼等(かれら)が行(おこな)ふ所(ところ)を爲(なす)こと勿(なか)れ蓋(そは)かれらは言(いふ)のみにして行(おこな)はざれば也(なり)
  4.  また彼等(かれら)は重(おもく)かつ負(おひ)がたき荷(に)を括(くくり)て人(ひと)の肩(かた)に負(おは)せ己(おのれ)は一(ひとつ)の指(ゆび)をもて之(これ)を動(うごか)すことすら好(このま)ず
  5.  彼等(かれら)の行(おこなひ)は凡(すべ)て人(ひと)に見(みら)れんが爲(ため)にする也(なり)その佩經(ふだ)を幅闊(はばひろく)し其(その)衣(ころも)の裾(すそ)を大(おほい)にし
  6.  また筵席(ふるまひ)の上座(かみざ)會堂(くわいだう)の高座(かうざ)
  7.  市上(まち)の問安(あいさつ)人々(ひとびと)よりラビ、ラビと稱(となへ)られんことを好(この)む
  8.  爾曹(なんぢら)はラビの稱(となへ)を受(うく)ること勿(なか)れ蓋(そは)なんぢらの師(し)は一人(ひとり)すなはちキリストなり爾曹(なんぢら)はみな兄弟(きやうだい)なり
  9.  また地(ち)にある者(もの)を父(ちち)と稱(となふ)ること勿(なか)れ爾曹(なんぢら)の父(ちち)は一人(ひとり)すなはち天(てん)に在(いま)す者(もの)なり
  10.  また導師(だうし)の稱(となへ)を受(うく)ること勿(なか)れ蓋(そは)なんぢらの導師(だうし)は一人(ひとり)すなはちキリストなり
  11.  爾曹(なんぢら)のうち大(おほい)なる者(もの)は爾曹(なんぢら)の僕(しもべ)と爲(なる)べし
  12.  凡(おほよ)そ自己(みづから)を高(たかふ)する者(もの)は卑(ひくく)せられ自己(みづから)を卑(ひくく)する者(もの)は高(たかく)せられん
  13.  噫(ああ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな僞善(ぎぜん)なる學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら天國(てんこく)を人(ひと)の前(まへ)に閉(とぢ)て自(みづか)ら入(いら)ず且(かつ)いらんとする者(もの)の入(いる)をも許(ゆる)さざれば也(なり)
  14.  噫(ああ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな僞善(ぎぜん)なる學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら嫠婦(やもめ)の家(いへ)を呑(のみ)いつはりて長(なが)き祈(いのり)をなす之(これ)に由(より)て爾曹(なんぢら)最(もつと)も重(おも)き審判(さばき)を受(うく)べければ也(なり)
  15.  ああ禍(わざはひ)なるかな僞善(ぎぜん)なる學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら徧(あまね)く水陸(うみやま)を歴(へ)巡(めぐ)り一人(ひとり)をも己(おの)が宗旨(しうし)に引(ひき)入(いれ)んとす既(すで)に引(ひき)入(いる)れば之(これ)を爾曹(なんぢら)よりも倍(ばい)したる地獄(ぢごく)の子(こ)と爲(なせ)り
  16.  噫(ああ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな瞽者(めしひ)なる相(てびき)よ爾曹(なんぢら)はいふ人(ひと)もし殿(みや)を指(さし)て誓(ちか)はば事(こと)なし殿(みや)の金(こがね)を指(さし)て誓(ちか)はば背(そむく)べからずと
  17.  愚(おろか)にして瞽(めしひ)なる者(もの)よ金(こがね)と金(こがね)を聖(きよ)からしむる殿(みや)とは孰(いづれ)か尊(たふと)き
  18.  又(また)いふ人(ひと)もし祭(まつり)りの壇(だん)を指(さし)て誓(ちか)はば事(こと)なし其(その)上(うへ)の禮物(そなへもの)を指(さし)て誓(ちか)はば背(そむく)べからずと
  19.  愚(おろか)にして瞽(めしひ)なる者(もの)よ禮物(そなへもの)と禮物(そなへもの)を聖(きよ)からしむる祭(まつり)の壇(だん)と孰(いづれ)か尊(たふと)き
  20.  それ祭(まつり)の壇(だん)を指(さし)て誓(ちか)ふ者(もの)は祭(まつり)の壇(だん)および其(その)上(うへ)の凡(すべて)の物(もの)を指(さし)て誓(ちか)ふなり
  21.  また殿(みや)を指(さし)て誓(ちか)ふ者(もの)は殿(みや)および其(その)中(うち)に在(いま)す者(もの)を指(さし)て誓(ちか)ふなり
  22.  また天(てん)を指(さし)て誓(ちか)ふ者(もの)は神(かみ)の寶座(みくらゐ)および其(その)上(うへ)に坐(ざ)する者(もの)を指(さし)て誓(ちか)ふなり
  23.  噫(ああ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな僞善(ぎぜん)なる學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら薄荷(はくか)、茴香(ういきやう)、馬芹(まきん)の十(じふ)分(ぶん)の一(いち)を取(とり)納(をさめ)て律法(おきて)の最(もつと)も重(おも)き義(ぎ)と仁(じん)と信(しん)とを爾曹(なんぢら)は廢(すつ)これ行(おこな)ふ可(べき)もの也(なり)かれも亦(また)廢(すつ)べからざる者(もの)なり
  24.  瞽者(めしひ)なる相者(てびき)よ爾曹(なんぢら)は蠉(ぼうふり)を漉(こし)出(いだ)して駱駝(らくだ)を呑(のむ)もの也(なり)
  25.  ああ禍(わざはひ)なる哉(かな)僞善(ぎぜん)なる學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)よ爾曹(なんぢら)杯(さかづき)と盤(さら)の外(そと)を潔(きよく)して内(うち)には貪欲(むさぼり)と淫欲(いんよく)とを充(みた)せり
  26.  瞽者(めしひ)なるパリサイの人(ひと)よ爾曹(なんぢら)まづ杯(さかづき)と盤(さら)の内(うち)を潔(きよく)せよ然(さら)ばその外(そと)も亦(また)きよまるべし
  27.  噫(ああ)なんぢら禍(わざはひ)なる哉(かな)僞善(ぎぜん)なる學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)よ爾曹(なんぢら)は白(しろ)く塗(ぬり)たる墓(はか)に似(に)たり外(そと)は美(うるは)しく見(みゆ)れども内(うち)は骸骨(がいこつ)と諸(さまざま)の汚穢(けがれ)にて充(みつ)
  28.  此(かく)の如(ごと)く爾曹(なんぢら)もまた外(そと)は義(ただし)く人(ひと)に見(みゆ)れども内(うち)は僞善(ぎぜん)と不法(ふはふ)にて充(みつ)
  29.  噫(ああ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな僞善(ぎぜん)なる學者(がくしや)とパリサイの人(ひと)よ爾曹(なんぢら)預言者(よげんしや)の墓(はか)をたて義人(ぎじん)の碑(ひ)を飾(かざ)れり
  30.  又(また)いふ我儕(われら)もし先祖(せんぞ)の時(とき)にあらば預言者(よげんしや)の血(ち)を流(なが)すことに與(くみ)せざりしをと
  31.  然(され)ば爾曹(なんぢら)は預言者(よげんしや)を殺(ころし)し者(もの)の裔(すゑ)なることを自(みづか)ら證(あかし)す
  32.  なんぢら先祖(せんぞ)の量(ますめ)を充(みた)せ
  33.  蛇(へび)蝮(まむし)の類(たぐひ)よ爾曹(なんぢら)いかで地獄(ぢごく)の刑罪(けいばつ)を免(まぬか)れんや
  34.  是(この)故(ゆゑ)に我(われ)爾曹(なんぢら)に預言者(よげんしや)と智者(ちしや)と學者(がくしや)を遣(つかは)さんに或(あるひ)は之(これ)を殺(ころ)し又(また)十字架(じふじか)に釘(つけ)或(あるひ)は其(その)會堂(くわいだう)にて之(これ)を鞭(むちう)ち或(あるひ)は邑(まち)より邑(まち)へ逐(おひ)苦(くるし)めん
  35.  そは義(ぎ)なるアベルの血(ち)より殿(みや)と祭(まつり)の壇(だん)の間(あひだ)にて爾曹(なんぢら)が殺(ころし)しバラキアの子(こ)ザカリアの血(ち)に至(いた)るまで地(ち)に流(なが)したる義人(ぎじん)の血(ち)は凡(すべ)て爾曹(なんぢら)に報(むくい)來(きた)らんが爲(ため)なり
  36.  われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此(この)事(こと)みな此(この)代(よ)に報(むくい)來(きた)るべし
  37.  噫(ああ)エルサレムよエルサレムよ預言者(よげんしや)を殺(ころ)し爾(なんぢ)に遣(つかは)さるる者(もの)を石(いし)にて撃(うつ)ものよ母雞(めんどり)の雛(ひな)を翼(つばさ)の下(した)に集(あつむ)る如(ごと)く我(われ)なんぢの赤子(こども)を集(あつめ)んとせしこと幾(いく)次(たび)ぞや然(され)ど爾曹(なんぢら)は好(このま)ざりき
  38.  視(み)よ爾曹(なんぢら)の家(いへ)は荒地(あれち)となりて遺(のこさ)れん
  39.  われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん主(しゆ)の名(な)に託(より)て來(きた)る者(もの)は福(さいはひ)なりと爾曹(なんぢら)の云(いは)んとき至(いた)るまでは今(いま)より我(われ)を見(み)ざるべし

第二十四章

  1.  イエス殿(みや)より出(いで)ければ其(その)弟子(でし)すすみて殿(みや)の構造(かまへ)を彼(かれ)に觀(み)せんとしたりしに
  2.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)すべて此等(これら)を見(み)ざるか我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此(この)處(ところ)に一(ひとつ)の石(いし)も石(いし)の上(うへ)に圯(くづさ)れずしては遺(のこ)らじ
  3.  イエス橄欖山(かんらんざん)に坐(ざ)し給(たま)へるとき弟子(でし)ひそかに來(きた)りて曰(いひ)けるは何(いづれ)の時(とき)このこと有(ある)や又(また)爾(なんぢ)の來(きた)る兆(しるし)と世(よ)の末(をはり)の兆(しるし)は如何(いか)なるぞや我儕(われら)に告(つげ)たまへ
  4.  イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)人(ひと)に欺(あざむ)かれざるやう愼(つつしめ)よ
  5.  蓋(そは)おほくの人(ひと)わが名(な)を冐(をかし)きたり我(われ)はキリストなりと云(いひ)て多(おほく)の人(ひと)を欺(あざむ)くべし
  6.  又(また)なんぢら戰(いくさ)と戰(いくさ)の風聲(うはさ)をきかん然(され)ど愼(つつしみ)て懼(おそ)るる勿(なか)れ此等(これら)の事(こと)は皆(みな)ある可(べき)なり然(しかれ)ども末期(をはり)は未(いま)だ至(いた)らず
  7.  民(たみ)おこりて民(たみ)をせめ國(くに)は國(くに)をせめ饑饉(ききん)、疫病(えきびやう)、地震(ぢしん)ところどころに有(ある)ならん
  8.  是(これ)みな禍(わざはひ)の始(はじめ)なり
  9.  其(その)とき人(ひと)なんぢらを患難(なやみ)に付(わた)し爾曹(なんぢら)を殺(ころ)すべし又(また)なんぢら我(わが)名(な)の爲(ため)に萬民(ばんみん)に憎(にくま)れん
  10.  此(この)とき許多(おほく)のもの礙(つまづき)かつ互(たがひ)に付(わた)し互(たがひ)に憾(うら)むべし
  11.  また僞(にせ)預言者(よげんしや)おほく起(おこり)て多(おほく)の人(ひと)を欺(あざむ)かん
  12.  また不法(ふはふ)みつるに因(より)て多(おほく)の人(ひと)の愛情(あいじやう)ひややかに爲(なる)べし
  13.  然(され)ど終(をはり)まで忍(しの)ぶ者(もの)は救(すくは)るることを得(え)ん
  14.  また天國(てんこく)の此(この)福音(ふくいん)を萬民(ばんみん)に證(あかし)せん爲(ため)に普(あまね)く天下(てんか)に宣(のべ)傳(つたへ)られん然(しか)るのち末期(をはり)いたるべし
  15.  是(この)故(ゆゑ)に預言者(よげんしや)ダニエルに託(より)て言(いは)れたる所(ところ)の殘暴(あらす)にくむべきもの聖處(せいしよ)に立(たつ)を見(み)ば(讀者(よむもの)よく思(おも)ふべし)
  16.  厥(その)時(とき)ユダヤにをる者(もの)は山(やま)に遁(のが)れよ
  17.  屋上(やのうへ)に在(をる)ものは其(その)家(いへ)の物(もの)を取(とら)んとて下(おる)る勿(なか)れ
  18.  田(はた)にをる者(もの)は其(その)衣(ころも)を取(とら)んとて歸(かへ)る勿(なか)れ
  19.  其(その)日(ひ)には孕(はら)める者(もの)と乳(ちち)を飮(のま)する婦(をんな)は禍(わざはひ)なる哉(かな)
  20.  爾曹(なんぢら)冬(ふゆ)または安息日(あんそくにち)に逃(にぐ)ることを免(まぬか)れん爲(ため)に祈(いの)れ
  21.  其(その)とき大(おほい)なる患難(なやみ)あり此(かく)の如(ごと)き患難(なやみ)は世(よ)の始(はじめ)より今(いま)に至(いた)るまで有(あら)ざりき又(また)後(のち)にも有(あら)じ
  22.  若(もし)その日(ひ)を少(すくな)くせられずば一人(ひとり)だに救(すくは)るる者(もの)なからん然(され)ど選(えらば)れし者(もの)の爲(ため)に其(その)日(ひ)は少(すくな)くせらるべし
  23.  其(その)時(とき)もしキリスト此處(ここ)にあり彼處(かしこ)にありと爾曹(なんぢら)にいふ者(もの)あるとも信(しん)ずる勿(なか)れ
  24.  そは僞(にせ)キリスト僞(にせ)預言者(よげんしや)たち起(おこり)て大(おほい)なる休徴(しるし)と異能(ふしぎなるわざ)を行(おこな)ひ選(えらば)れたる者(もの)をも欺(あざむ)くことを得(え)ば之(これ)を欺(あざむ)く可(べけ)れば也(なり)
  25.  われ預(あらか)じめ爾曹(なんぢら)に之(これ)を告(つぐ)
  26.  若(もし)キリスト野(の)に在(あり)といふ者(もの)あるとも出(いづ)る勿(なか)れ室(へや)に在(あり)と云(いふ)ものあるとも信(しん)ずる勿(なか)れ
  27.  そは雷(いなづま)の東(ひがし)より出(いで)て西(にし)にまで閃(ひらめ)くが如(ごと)く人(ひと)の子(こ)も來(きた)るべければ也(なり)
  28.  それ屍(しかばね)のある處(ところ)には鷲(わし)あつまらん
  29.  此等(これら)の日(ひ)の患難(なやみ)の後(のち)ただちに日(ひ)は晦(くら)く月(つき)は光(ひかり)を失(うしな)ひ星(ほし)は空(そら)よりおち天(てん)の勢(いきほ)ひ震(ふる)ふべし
  30.  其(その)とき人(ひと)の子(こ)の兆(しるし)天(てん)に現(あらは)るまた地上(ちじやう)にある諸族(しよぞく)は哭(なげき)哀(かなし)み且(かつ)人(ひと)の子(こ)の權威(けんゐ)と大(おほい)なる榮光(えいくわう)をもて天(てん)の雲(くも)に乘(のり)來(きた)るを見(み)ん
  31.  又(また)その使(つかひ)等(たち)を遣(つかは)し箛(らつぱ)の大(おほい)なる聲(こゑ)を出(いださ)しめて天(てん)の此(この)極(はて)より彼(かの)極(はて)まで四方(しはう)より其(その)選(えらば)れし者(もの)を集(あつ)むべし
  32. 夫(それ)なんぢら無花果樹(いちじく)に由(より)て譬(たとへ)を學(まな)べ其(その)枝(えだ)すでに柔(やはら)かにして葉(は)萌(めぐ)めば夏(なつ)の近(ちか)きを知(しる)
  33.  此(かく)の如(ごと)く爾曹(なんぢら)も凡(すべ)て此等(これら)の事(こと)を見(み)ば時(とき)ちかく門口(かどぐち)に至(いた)ると知(しれ)
  34.  われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此等(これら)の事(こと)ことごとく成(なる)まで此(この)民(たみ)は廢(うせ)ざるべし
  35.  天地(てんち)は廢(うせ)ん然(され)ど我(わが)言(ことば)は廢(うせ)じ
  36. その日(ひ)その時(とき)を知(しる)ものは唯(ただ)わが父(ちち)のみ天(てん)の使者(つかひ)も誰(たれ)もしる者(もの)なし
  37.  ノアの時(とき)の如(ごと)く人(ひと)の子(こ)の來(きた)るも亦(また)然(しか)らん
  38.  それ洪水(こうずゐ)の前(まへ)ノア方舟(はこぶね)にいる日(ひ)までは人々(ひとびと)飮(のみ)食(くひ)嫁(とつぎ)娶(めとり)などして
  39.  洪水(こうずゐ)の來(きた)り悉(ことごと)く之(これ)を滅(ほろぼ)すまで知(しら)ざりき此(かく)の如(ごと)く人(ひと)の子(こ)も亦(また)きたらん
  40.  其(その)とき二人(ふたり)田(はた)に在(あら)んに一人(ひとり)は取(とら)れ一人(ひとり)は遺(のこ)さるべし
  41.  二人(ふたり)の婦(をんな)磨(うす)ひき居(をら)んに一人(ひとり)はとられ一人(ひとり)は遺(のこ)さるべし
  42.  是(この)故(ゆゑ)に爾曹(なんぢら)の主(しゆ)いづれの時(とき)きたるかを知(しら)ざれば怠(おこた)らずして守(まも)れ
  43.  爾曹(なんぢら)これを知(しれ)もし家(いへ)の主人(あるじ)ぬすびと何(いづれ)の時(とき)きたるかを知(しら)ば其(その)家(いへ)を守(まもり)て破(やぶ)らすまじ
  44.  然(され)ば爾曹(なんぢら)もまた預備(そなへ)せよ意(おもは)ざる時(とき)に人(ひと)の子(こ)きたらんと爲(すれ)ばなり
  45.  時(とき)に及(および)て糧(かて)を彼等(かれら)に予(あたへ)さする爲(ため)に主人(あるじ)がその僕(しもべ)等(ども)の上(うへ)に立(たて)たる忠義(ちゆうぎ)にして智(さとき)僕(しもべ)は誰(たれ)なる乎(か)
  46.  その主人(あるじ)の來(きた)らん時(とき)かくの如(ごと)く勤(つとむ)るを見(みら)るる僕(しもべ)は福(さいはひ)なり
  47.  我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん其(その)所有(もちもの)をみな彼(かれ)に督(つかさど)らすべし
  48.  若(もし)その惡(あしき)僕(しもべ)おのが心(こころ)に我(わ)が主人(あるじ)の來(きた)るは遲(おそか)らんと意(おも)ひ
  49.  その朋輩(はうばい)を打(うち)撻(たた)きて酒(さけ)に醉(ゑひ)たる者(もの)どもと共(とも)に飮食(のみくひ)し始(はじめ)なば
  50.  その僕(しもべ)の主人(あるじ)おもはざるの日(ひ)しらざるの時(とき)に來(きた)りて
  51.  之(これ)を斬(きり)殺(ころ)し其(その)報(むくい)を僞善者(ぎぜんしや)と同(おなじ)うすべし其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)切齒(はがみ)すること有(あら)ん

第二十五章

  1.  其(その)とき天國(てんこく)は燈(ともしび)を執(とり)て新郎(はなむこ)を迎(むかへ)に出(いづ)る十人(じふにん)の童女(むすめ)に比(なぞら)ふべし
  2.  その中(うち)の五人(ごにん)は智(かしこ)く五人(ごにん)は愚(おろか)なり
  3.  愚(おろか)かなる者(もの)は其(その)燈(ともしび)をとるに油(あぶら)を携(たづさ)へざりしが
  4.  智(かしこ)き者(もの)は其(その)燈(ともしび)と兼(とも)に油(あぶら)を器(うつは)に携(たづさ)へたり
  5.  新郎(はなむこ)おそかりければ皆(みな)假寐(かりね)して眠(ねむ)れり
  6.  夜(よ)半(なか)ばに叫(さけ)びて新郎(はなむこ)きたりぬ出(いで)て迎(むかへ)よと呼(よぶ)聲(こゑ)ありければ
  7.  この童女(むすめ)ども皆(みな)おきて其(その)燈(ともしび)を整(ととの)へたるに
  8.  愚(おろか)かなるもの智(かしこ)き者(もの)に曰(いひ)けるは我儕(われら)の燈(ともしび)熄(きえ)んとす願(ねがは)くは爾曹(なんぢら)の油(あぶら)を我儕(われら)に分(わけ)予(あたへ)よ
  9.  智(かしこ)きもの答(こたへ)て曰(いひ)けるは我儕(われら)と爾曹(なんぢら)とに恐(おそら)くは足(たる)まじ爾曹(なんぢら)賣者(うるもの)に往(ゆき)て己(おの)が爲(ため)に買(かへ)
  10.  かれら買(かは)んとて往(ゆき)しとき新郎(はなむこ)きたりければ既(すで)に備(そなへ)たる者(もの)は之(これ)と偕(とも)に婚筵(こんえん)に入(いり)しかば門(もん)は閉(とぢ)られたり
  11.  斯(かく)て後(のち)その餘(ほか)の童女(むすめ)きたりて曰(いひ)けるは主(しゆ)よ主(しゆ)よ我儕(われら)の爲(ため)に開(ひらき)たまへ
  12.  答(こたへ)て我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん我(われ)は爾曹(なんぢら)を知(しら)ずと曰(いへ)り
  13.  然(され)ば怠(おこた)らずして守(まも)れ爾曹(なんぢら)その日(ひ)その時(とき)を知(しら)ざれば也(なり
  14.  また天國(てんこく)は或(ある)人(ひと)の旅行(たびだち)せんとして其(その)僕(しもべ)をよび所有(もちもの)を彼等(かれら)に預(あづく)るが如(ごと)し
  15.  各人(おのおの)の智慧(ちゑ)に從(したが)ひて或(ある)者(もの)には銀(ぎん)五千(ごせん)或(ある)者(もの)には二千(にせん)或(ある)者(もの)には一千(いつせん)を予(あた)へおき直(ただち)に旅行(たびだち)せり
  16.  五千(ごせん)の銀(ぎん)を受(うけ)し者(もの)は往(ゆき)て之(これ)を貿易(はたらか)し他(ほか)に五千(ごせん)を得(え)たり
  17.  二千(にせん)を受(うけ)し者(もの)もまた他(ほか)に二千(にせん)を得(え)たり
  18.  然(しか)るに一千(いつせん)を受(うけ)し者(もの)は往(ゆき)て地(ち)を掘(ほり)その主(しゆ)の金(かね)を藏(かく)せり
  19.  歴久(ほどへ)て後(のち)その僕(しもべ)等(たち)の主(しゆ)かへりて彼等(かれら)と會計(くわいけい)せしに
  20.  五千(ごせん)の銀(ぎん)を受(うけ)し者(もの)その他(ほか)に五千(ごせん)の銀(ぎん)を携(もち)來(きた)りて主(しゆ)よ我(われ)に五千(ごせん)の銀(ぎん)を預(あづけ)しが他(ほか)に五千(ごせん)の銀(ぎん)を儲(まうけ)たりと曰(いひ)ければ
  21.  主(しゆ)かれに曰(いひ)けるはああ善(ぜん)かつ忠(ちゆう)なる僕(しもべ)ぞ爾(なんぢ)寡(わづか)なる事(こと)に忠(ちゆう)なり我(われ)なんぢに多(おほき)ものを督(つかさど)らせん爾(なんぢ)の主人(あるじ)の歡樂(よろこび)に入(いれ)よ
  22.  二千(にせん)の銀(ぎん)を受(うけ)し者(もの)きたりて主(しゆ)よ我(われ)に二千(にせん)の銀(ぎん)を預(あづけ)しが他(ほか)に二千(にせん)の銀(ぎん)を儲(まうけ)たりと曰(いひ)ければ
  23.  主(しゆ)かれに曰(いひ)けるはああ善(ぜん)且(かつ)忠(ちゆう)なる僕(しもべ)ぞなんぢ寡(わづか)なる事(こと)に忠(ちゆう)なり我(われ)なんぢに多(おほき)ものを督(つかさど)らせん爾(なんぢ)の主人(あるじ)の歡樂(よろこび)に入(いれ)よ
  24.  また一千(いつせん)の銀(ぎん)を受(うけ)し者(もの)きたりて曰(いひ)けるは主(しゆ)よ爾(なんぢ)は嚴(きびしき)人(ひと)にて播(まか)ざる處(ところ)より穫(かり)ちらさざる處(ところ)より斂(あつむ)ることを我(われ)は知(しる)
  25.  故(ゆゑ)に我(われ)懼(おそれ)てゆき主(しゆ)の一千(いつせん)の銀(ぎん)を地(ち)に藏(かく)し置(おけ)り今(いま)なんぢ爾(なんぢ)の物(もの)を得(え)たり
  26.  その主(しゆ)こたへて曰(いひ)けるは惡(あしく)かつ惰(おこた)れる僕(しもべ)ぞ爾(なんぢ)わが播(まか)ざる處(ところ)よりかり散(ちら)さざる處(ところ)より斂(あつむ)ることを知(しる)か
  27.  然(しか)らば我(わ)が金(かね)を兌換舖(りやうがへや)に預(あづけ)置(おく)べきなり然(さら)ば我(わ)が歸(かへり)たるとき本(もと)と利(り)とを受(うく)べし
  28.  是(この)故(ゆゑ)に彼(かれ)の一千(いつせん)の銀(ぎん)を取(とり)て十(じふ)千(せん)の銀(ぎん)ある者(もの)に予(あたへ)よ
  29.  それ有(もて)る者(もの)は予(あたへ)られて尚(なほ)あまりあり無有(もたぬ)者(もの)はその有(もて)る物(もの)をも奪(とら)るる也(なり)
  30. 無益(むえき)なる僕(しもべ)を外(そと)の幽暗(くらき)に逐(おひ)やれ其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)切齒(はがみ)すること有(あら)ん
  31.  人(ひと)の子(こ)おのれの榮光(えいくわう)をもて諸(もろもろ)の聖(きよき)使(つかひ)を率(ひきゐ)來(きた)る時(とき)はその榮光(えいくわう)の位(くらゐ)に坐(ざ)し
  32.  萬國(ばんこく)の民(たみ)をその前(まへ)に集(あつ)め羊(ひつじ)を牧者(かふもの)の綿羊(めんやう)と山羊(やぎ)とを別(わかつ)が如(ごと)く彼等(かれら)を別(わか)ち
  33.  綿羊(めんやう)をその右(みぎ)に山羊(やぎ)をその左(ひだり)に置(おく)べし
  34.  斯(かく)て王(わう)その右(みぎ)にをる者(もの)に云(いは)ん吾(わが)父(ちち)に惠(めぐま)るる者(もの)よ來(きた)りて創世(よのはじめ)より以來(このかた)なんぢらの爲(ため)に備(そなへ)られたる國(くに)を嗣(つげ)
  35.  蓋(そは)なんぢら我(わ)が飢(うゑ)し時(とき)われに食(くは)せ渇(かわき)しとき我(われ)に飮(のま)せ旅(たび)せし時(とき)われを宿(やど)らせ
  36.  裸(はだか)なりし時(とき)われに衣(き)せ病(やみ)しとき我(われ)をみまひ獄(ひとや)に在(あり)しとき我(われ)に就(きた)ればなり
  37.  是(ここ)に於(おい)て義(ただしき)者(もの)かれに答(こたへ)て云(いは)ん主(しゆ)よ何時(いつ)なんぢの飢(うゑ)たるを見(み)て食(くは)せまた渇(かわき)たるに飮(のま)しし乎(や)
  38.  何時(いつ)主(しゆ)の旅(たび)したるを見(み)て宿(やど)らせ又(また)裸(はだか)なるに衣(きせ)しや
  39.  何時(いつ)主(しゆ)の病(やみ)また獄(ひとや)に在(ある)を見(み)て爾(なんぢ)に至(いた)りし乎(や)
  40.  王(わう)こたへて彼等(かれら)に曰(いは)ん我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん既(すで)に爾曹(なんぢら)わが此(この)兄弟(きやうだい)の最微者(いとちひさきもの)の一人(ひとり)に行(おこな)へるは即(すなは)ち我(われ)に行(おこなひ)しなり
  41.  遂(つひ)にまた左(ひだり)にをる者(もの)に曰(いは)ん罰(つみ)せらるべき者(もの)よ我(われ)を離(はな)れて惡魔(あくま)と其(その)使者(つかひ)の爲(ため)に備(そなへ)たる熄(きえ)ざる火(ひ)に入(いれ)よ
  42.  蓋(そは)なんぢら我(わ)が飢(うゑ)し時(とき)われに食(くは)せず渇(かわき)しとき我(われ)に飮(のま)せず
  43.  旅(たび)せし時(とき)われを宿(やど)らせず裸(はだか)なりし時(とき)われに衣(きせ)ず病(やみ)また獄(ひとや)に在(あり)し時(とき)われを顧(みまは)ざれば也(なり)
  44.  是(ここ)に於(おい)て彼等(かれら)また答(こたへ)て曰(いは)ん主(しゆ)よ何時(いつ)なんぢの飢(うゑ)また渇(かわき)また旅(たび)し又(また)裸(はだか)また病(やまひ)また獄(ひとや)に在(ある)を見(み)て主(しゆ)に事(つかへ)ざりし乎(や)
  45.  其(その)とき王(わう)こたへて彼等(かれら)にいはん我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此(この)最微者(いとちひさきもの)の一人(ひとり)に行(おこな)はざるは即(すなは)ち我(われ)に行(おこな)はざりし也(なり)
  46.  此等(これら)の者(もの)は窮(かぎり)なき刑罰(けいばつ)にいり義(ただしき)者(もの)は窮(かぎ)りなき生命(いのち)に入(いる)るべし

第二十六章

  1.  偖(さて)イエスこの諸(もろもろ)の言(ことば)を言(いひ)竟(をは)りて其(その)弟子(でし)に曰(いひ)けるは
  2.  二日(ふつか)ののち逾越節(すぎこしのいはひ)なるは爾曹(なんぢら)が知(しる)ところ也(なり)それ人(ひと)の子(こ)は十字架(じふじか)に釘(つけ)られん爲(ため)に付(わた)さるべし
  3.  此(この)とき祭司(さいし)の長(をさ)および民(たみ)の長老(としより)等(たち)カヤパと云(いへ)る祭司(さいし)の長(をさ)の邸(やしき)の庭(には)に集(あつま)り
  4.  詭計(たばかり)をもてイエスを執(とら)へ殺(ころ)さんと共々(ともども)に謀(はかり)いひけるは
  5.  祭(まつり)の日(ひ)には行(なす)べからず恐(おそら)くは民(たみ)の中(うち)に亂(らん)おこらん
  6.  イエス、ベタニヤの癩病(らいびやう)人(にん)シモンの家(いへ)に居(ゐ)たまへる時(とき)
  7.  ある婦(をんな)蝋石(らふせき)の器物(うつはもの)に價(あたひ)たかき香膏(にほひあぶら)を盛(もり)てイエスの食(しよく)する所(もと)に携(もち)來(きた)り其(その)首(かうべ)に斟(そそぎ)しかば
  8.  弟子(でし)等(たち)これを見(み)て怒(いかり)を含(ふくみ)いひけるは此(この)糜費(つひえ)のことを爲(なす)は何故(なにゆゑ)ぞや
  9.  若(もし)これを賣(うら)ば多(おほく)の金(きん)を得(え)て貧者(まづしきもの)に施(ほどこ)すことを得(え)ん
  10.  イエス知(しり)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは何(なん)ぞ此(この)婦(をんな)を惱(なやま)すや彼(かれ)は我(われ)に善(よき)事(こと)を行(おこな)へる也(なり)
  11.  貧者(まづしきもの)は常(つね)に爾曹(なんぢら)と偕(とも)にあれど我(われ)は常(つね)に爾曹(なんぢら)と偕(とも)に在(あら)ず
  12.  彼(かれ)がこの香膏(にほひあぶら)を我(わが)體(み)に斟(そそぎ)しは我(われ)の葬(はうむり)の爲(ため)に行(なせ)る也(なり)
  13.  われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん天(あめ)の下(した)いづくにても此(この)福音(ふくいん)の宣(のべ)傳(つたへ)らるる處(ところ)には此(この)婦(をんな)の行(なし)し事(こと)もその紀念(かたみ)の爲(ため)に言(いひ)傳(つたへ)らるべし
  14.  其(その)とき十二(じふに)弟子(でし)の一人(ひとり)なるイスカリオテのユダと云(いへ)るもの祭司(さいし)の長(をさ)等(たち)の所(もと)に往(ゆき)て曰(いひ)けるは
  15.  我(われ)なんぢらに彼(かれ)を賣(わた)さば幾何(なにほど)を予(あたふ)るか遂(つひ)に銀(ぎん)三十(さんじふ)にて約(やく)したり
  16.  此(この)時(とき)よりイエスを賣(わた)さんと機(をり)を窺(うかが)ひぬ
  17.  除酵節(たねいれぬぱんのいはひ)の首(はじめ)の日(ひ)弟子(でし)イエスに來(きた)り曰(いひ)けるは我儕(われら)すぎこしの食(しよく)を爾(なんぢ)の爲(ため)に何處(いづこ)に備(そな)ふべき乎(や)
  18.  イエス曰(いひ)けるは京城(みやこ)にいり某(それがし)に至(いたり)ていへ師(し)いふ我(わ)が時(とき)近(ちかづ)きければ我(われ)弟子(でし)と偕(とも)に逾越(すぎこし)の節筵(いはひ)を爾(なんぢ)が家(いへ)に行(なす)べしと
  19.  弟子(でし)イエスに命(めい)ぜられし如(ごとく)して逾越(すぎこし)の食(しよく)を備(そな)ふ
  20.  日(ひ)くるる時(とき)イエス十二(じふに)弟子(でし)と偕(とも)に席(せき)に就(つき)
  21. 食(しよく)する時(とき)いひけるは吾(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん爾曹(なんぢら)のうち一人(ひとり)われを賣(わたす)なり
  22.  彼等(かれら)いたく憂(うれへ)て各(おのおの)イエスに曰(いひ)出(いで)けるは主(しゆ)よ我(われ)なる乎(か)
  23.  答(こたへ)て曰(いひ)けるは我(われ)と偕(とも)に手(て)を盂(さら)に着(つく)る者(もの)は即(すなは)ち我(われ)を賣(わた)す者(もの)なり
  24. 人(ひと)の子(こ)は己(おのれ)について録(しる)されたる如(ごと)く逝(ゆか)ん然(され)ど人(ひと)の子(こ)を賣(わた)す者(もの)は禍(わざはひ)なる哉(かな)その人(ひと)生(うま)れざりしならば反(かへつ)て幸(さいはひ)なりしならん
  25.  彼(かれ)を賣(わた)すユダ答(こたへ)て曰(いひ)けるはラビ我(われ)なるや之(これ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)の言(いへ)る如(ごと)し
  26.  かれら食(しよく)する時(とき)イエス、パンを取(とり)て祝(しゆく)し之(これ)をさき弟子(でし)に與(あたへ)て曰(いひ)けるは取(とり)て食(くらへ)これは我(わが)身(み)なり
  27.  また杯(さかづき)を取(とり)て謝(しや)し彼等(かれら)に與(あたへ)て曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)みな此(この)杯(さかづき)より飮(のめ)
  28.  これ新約(しんやく)の我(わが)血(ち)にして罪(つみ)を赦(ゆる)さんとて衆(おほく)の人(ひと)のために流(ながす)所(ところ)のもの也(なり)
  29.  われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん今(いま)より後(のち)なんぢらと偕(とも)に新(あたら)しき物(もの)を吾(わが)父(ちち)の國(くに)に飮(のま)ん日(ひ)までは再(ふたた)びこの葡萄(ぶだう)にて造(つく)れる物(もの)を飮(のま)じ
  30.  かれら歌(うた)を謳(うたひ)てのち橄欖山(かんらんざん)に往(ゆけ)り
  31.  其(その)時(とき)イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは今夜(こよひ)なんぢら皆(みな)われに就(つい)て礙(つまづ)かん蓋(そは)われ牧者(かふもの)を撃(うた)ば群(むれ)の綿羊(めんやう)ちらんと録(しる)されたれば也(なり)
  32.  然(され)ど我(われ)甦(よみがへ)りて後(のち)なんぢらに先(さきだ)ちガリラヤに往(ゆく)べし
  33.  ペテロ答(こたへ)てイエスに曰(いひ)けるは皆(みな)なんぢに就(つい)て礙(つまづ)くとも我(われ)は終(つひ)に礙(つまづ)かじ
  34.  イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは我(われ)まことに爾(なんぢ)に告(つげ)ん今夜(こよひ)鷄(にはとり)なかざる前(まへ)に爾(なんぢ)三次(みたび)われを知(しら)ずと言(いは)ん
  35.  ペテロ彼(かれ)に曰(いひ)けるは我(われ)は主(しゆ)と偕(とも)に死(しぬ)るとも爾(なんぢ)を知(しら)ずと言(いは)じ弟子(でし)みな如此(かく)いへり
  36.  厥(その)時(とき)イエス彼等(かれら)と偕(とも)にゲツセマネといふ處(ところ)に至(いたり)て弟子(でし)等(たち)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)ここに坐(をれ)われ彼處(かしこ)に往(ゆき)て祈(いの)らん
  37.  ペテロ及(および)ゼベダイの二人(ふたり)の子(こ)を携(たづさ)へ憂(うれ)へ哀(かなし)みを催(もよほ)し
  38.  彼等(かれら)に曰(いひ)けるは我(わが)心(こころ)いたく憂(うれへ)て死(しぬ)るばかり也(なり)ここに待(まち)て我(われ)と偕(とも)に目(め)を醒(さま)しをれ
  39.  少(すこ)し進(すすみ)往(ゆき)てひれふし祈(いのり)いひけるは吾(わが)父(ちち)よ若(もし)かなはば此(この)杯(さかづき)を我(われ)より離(はな)ち給(たま)へ然(され)ど我(わが)心(こころ)の從(まま)を成(なさ)んとするに非(あら)ず聖旨(みこころ)に任(まか)せ給(たま)へ
  40.  而(しかし)て弟子(でし)に來(きた)り其(その)寢(いね)たるを見(み)てペテロに曰(いひ)けるは如此(かく)一時(ひととき)も我(われ)と偕(とも)に目(め)を醒(さまし)をること能(あた)はざる乎(か)
  41.  惑(まどひ)に入(いら)ぬやう目(め)を醒(さまし)かつ祈(いのれ)その靈(たましひ)には願(ねが)ふなれど肉體(にくたい)よわきなり
  42.  二次(ふたたび)ゆきて復(また)いのり曰(いひ)けるは吾(わが)父(ちち)よ若(もし)われに此(この)杯(さかづき)を飮(のま)さで離(はな)つこと能(あたは)ずば聖旨(みこころ)に任(まか)せ給(たま)へ
  43. 來(きた)りて又(また)かれらの寢(いね)たるを見(みる)これ彼等(かれら)の目(め)疲(つかれ)たる也(なり)
  44.  彼等(かれら)を離(はな)れて又(また)ゆき第三次(みたびめ)も同(おなじ)言(ことば)をもて祈(いの)れり
  45.  遂(つひ)に其(その)弟子(でし)に來(きた)りて曰(いひ)けるは今(いま)は寢(いね)て休(やす)め時(とき)は近(ちか)し人(ひと)の子(こ)罪人(つみびと)の手(て)に付(わた)されん
  46.  起(おき)よ我儕(われら)往(ゆく)べし我(われ)を賣(わた)す者(もの)近(ちかづ)きたり
  47.  如此(かく)いへるとき十二(じふに)の一人(ひとり)なるユダ劔(つるぎ)と棒(ぼう)とを持(もち)たる多(おほく)の人々(ひとびと)と偕(とも)に祭司(さいし)の長(をさ)と民(たみ)の長老(としより)の所(もと)より來(きた)る
  48.  イエスを賣(わた)す者(もの)かれらに號(しるし)をなして曰(いひ)けるは我(わ)が接吻(くちつけ)する者(もの)は夫(それ)なり之(これ)を執(とら)へよ
  49.  直(ただち)にイエスに來(きた)りラビ安(やすき)かと曰(いひ)て彼(かれ)に接吻(くちつけ)す
  50.  イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは友(とも)よ何(なに)の爲(ため)に來(きた)るや遂(つひ)に彼等(かれら)すすみ來(きた)り手(て)をイエスに措(かけ)て執(とら)へぬ
  51. イエスと偕(とも)に在(あり)し者(もの)の一人(ひとり)手(て)をのべ劔(つるぎ)を拔(ぬき)て祭司(さいし)の長(をさ)の僕(しもべ)を撃(うち)その耳(みみ)を削(そぎ)おとせり
  52. イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)の劔(つるぎ)を故處(もと)に收(をさめ)よ凡(すべ)て劔(つるぎ)をとる者(もの)は劔(つるぎ)にて亡(ほろ)ぶべし
  53.  我(われ)いま十二(じふに)軍(ぐん)餘(よ)の天使(つかひ)を我(わが)父(ちち)に請(こひ)て受(うく)ること能(あた)はずと爾曹(なんぢら)おもふ乎(や)
  54. もし然(しか)せば如此(かく)あるべき事(こと)を録(しるし)し聖書(せいしよ)に如何(いか)で應(かな)はん乎(や
  55.  此(この)時(とき)イエス人々(ひとびと)に曰(いひ)けるは劔(つるぎ)と棒(ぼう)とを持(もち)て盜賊(ぬすびと)を執(とら)ふる如(ごとく)して我(われ)を執(とらへ)にきたる乎(か)われ日々(ひび)爾曹(なんぢら)と偕(とも)に殿(みや)に坐(ざ)して誨(をしへ)しに爾曹(なんぢら)われを執(とらへ)ざりし
  56.  然(され)ど此(かく)の如(ごとく)なるは皆(みな)預言者(よげんしや)の録(しるし)たる所(ところ)に應成(かなは)せん爲(ため)なり遂(つひ)に弟子(でし)等(たち)みなイエスを離(はな)れて逃(にげ)去(さり)ぬ
  57. イエスを執(とらへ)たる者(もの)これを曳(ひき)て學者(がくしや)と長老(としより)の集(あつま)れる所(ところ)の祭司(さいし)の長(をさ)カヤパに携(つれ)ゆく
  58. ペテロ遠(とほ)く離(はな)れてイエスに從(したが)ひ祭司(さいし)の長(をさ)の庭(には)にまで至(いたり)その結局(なりゆき)を見(み)んとて内(うち)にいり僕(しもべ)と偕(とも)に坐(ざ)せり
  59. 祭司(さいし)の長(をさ)等(たち)および長老(としより)すべての議員(ぎゐん)ともにイエスを殺(ころ)さんとして妄證(いつはりのあかし)を求(もとむ)れども得(え)ず
  60. 多(おほ)くの妄(いつは)りの證者(あかしびと)きたれども亦(また)えず後(のち)また妄(いつは)りの證者(あかしびと)二人(ふたり)きたりて曰(いひ)けるは
  61. この人(ひと)曩(さき)に言(いへ)ることあり我(われ)よく神(かみ)の殿(みや)を毀(こぼ)ちて三日(みつか)の内(うち)に之(これ)を建(たて)うべしと
  62. 祭司(さいし)の長(をさ)たちてイエスに曰(いひ)けるは爾(なんぢ)こたふる言(こと)なき乎(か)この人々(ひとびと)の爾(なんぢ)に立(たつ)る證據(しようこ)は如何(いかに)
  63. イエス默然(もくねん)たり祭司(さいし)の長(をさ)こたへて彼(かれ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)キリスト神(かみ)の子(こ)なるか我(われ)なんぢを活(いける)神(かみ)に誓(ちかは)せて之(これ)を告(つげ)しめん
  64. イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)が言(いへ)る如(ごと)し且(かつ)われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此(この)のち人(ひと)の子(こ)大權(ちから)の右(みぎ)に坐(ざ)し天(てん)の雲(くも)に乘(のり)て來(きた)るを爾曹(なんぢら)みるべし
  65.  是(ここ)に於(おい)て祭司(さいし)の長(をさ)その衣(ころも)を裂(さき)て曰(いひ)けるは此(この)人(ひと)は褻涜(けがす)ことを言(いへ)り何(なん)ぞ外(ほか)に證據(しようこ)を求(もとめ)んや爾曹(なんぢら)も今(いま)その褻涜(けがし)たることを聞(きく)
  66.  なんぢら如何(いかに)おもふ乎(や)かれら答(こたへ)て曰(いひ)けるは彼(かれ)は死(し)に當(あた)れり
  67.  是(ここ)に於(おい)て彼等(かれら)その面(かほ)に唾(つばき)し且(かつ)拳(こぶし)にて撃(うて)りまた或(ある)人(ひと)かれを批(たたき)いひけるは
  68. キリストよ爾(なんぢ)を撃者(うつもの)は誰(たれ)か我儕(われら)に預言(よげん)せよ
  69. ペテロ庭(には)に坐(すわり)ゐけるに或(ある)婢(しもめ)きたりて爾(なんぢ)もガリラヤのイエスと偕(とも)なりと曰(いひ)ければ
  70.  ペテロ凡(すべて)の人(ひと)の前(まへ)に此(この)言(ことば)を肯(うけが)はずして我(われ)なんぢが言(いふ)ところを知(しら)ずと曰(いへ)り
  71. 出(いで)て門口(かどぐち)に至(いた)れる時(とき)また他(ほか)の婢(しもめ)これを見(み)て其處(そこ)にをる者(もの)に曰(いひ)けるは此(この)人(ひと)もナザレのイエスと偕(とも)に在(あり)し
  72. ペテロまた肯(うけが)はずして誓(ちか)ふ我(われ)この人(ひと)を知(しら)ずと
  73.  暫(しばら)くありて旁(かたは)らに立(たち)たる者(もの)すすみ近(より)てペテロに曰(いひ)けるは誠(まこと)に爾(なんぢ)もその黨(ともがら)の一人(ひとり)なり蓋(そは)なんぢの方言(くになまり)なんぢを顯(あらは)せり
  74.  是(ここ)に於(おい)てペテロ詈(ののし)り且(かつ)誓(ちかひ)て我(われ)その人(ひと)を知(しら)ずと曰(いひ)しが頓(やが)て雞(にはとり)鳴(なき)ぬ
  75.  ペテロ、イエスの雞(にはとり)なかざる前(まへ)なんぢ三次(みたび)われを知(しら)ずといはんと云(いひ)たまへる言(こと)を憶起(おもひいだ)し外(そと)に出(いで)て悲(かなし)み哭(な)けり

第二十七章

  1.  平旦(よあけ)になりて凡(すべて)の祭司(さいし)の長(をさ)と民(たみ)の長老(としより)ともに謀(はかり)てイエスを殺(ころ)さんとし
  2.  既(すで)に彼(かれ)を縛(しばり)ひきゆきて方伯(つかさ)のポンテオ・ピラトに解(わた)せり
  3.  是(ここ)に於(おい)てイエスを賣(わた)ししユダ彼(かれ)の死(し)に定(さだめ)られしを見(み)て悔(くやみ)その銀(ぎん)三十(さんじふ)を祭司(さいし)の長(をさ)長老(としより)等(たち)に返(かへ)して
  4.  曰(いひ)けるは無辜(つみなき)の血(ち)を付(わた)し我(われ)は罪(つみ)を犯(をか)しぬ彼等(かれら)いひるは我儕(われら)に於(おい)て何(なん)ぞ與(あづか)らんや爾(なんぢ)みづから當(あたる)べし
  5.  ユダその銀(ぎん)を殿(みや)に投(なげ)棄(すて)て其處(そこ)を去(さり)ゆきて自(みづか)ら縊(くびれ)たり
  6.  祭司(さいし)の長(をさ)等(たち)この銀(ぎん)を取(とり)て曰(いひ)けるは此(こ)は血(ち)の價(あたひ)なれば賽錢(さいせん)の箱(はこ)に入(いる)べからずとて
  7.  共(とも)に謀(はかり)この銀(ぎん)をもて旅客(たびびと)を葬(はうむ)る爲(ため)に陶工(やきものし)の田(はたけ)を買(かへ)り
  8.  故(ゆゑ)に其(その)田(はたけ)は今(いま)に至(いた)るまで血田(ちのはたけ)と稱(なづけ)らる
  9.  是(ここ)に於(おい)て預言者(よげんしや)エレミヤに託(より)いはれたる言(ことば)にイスラエルの民(たみ)に估(ねづも)られ估(ねづも)られし者(もの)の價(あたひ)の銀(ぎん)三十(さんじふ)を取(とり)
  10.  主(しゆ)の我(われ)に命(めい)ぜし如(ごと)く陶工(やきものし)の田(はたけ)を買(かひ)ぬと有(ある)に應(かな)へり
  11.  偖(さて)イエス方伯(つかさ)の前(まへ)にたつ方伯(つかさ)イエスに問(とふ)て曰(いひ)けるは爾(なんぢ)はユダヤ人(びと)の王(わう)なるかイエス之(これ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)が言(いへ)る如(ごと)し
  12.  祭司(さいし)の長(をさ)長老(としより)たち彼(かれ)を訴(うつた)ふれども何(なに)の答(こたへ)もせず
  13.  是(ここ)に於(おい)てピラト彼(かれ)に曰(いひ)けるは此(この)人々(ひとびと)なんぢに立(たつ)る證(あかし)のかく大(おほい)なるを爾(なんぢ)きかざる乎(か)
  14.  方伯(つかさ)の甚(いと)奇(あやし)とするまでにイエス一言(ひとこと)も答(こた)へざりき
  15.  この祭(まつり)の日(ひ)には方伯(つかさ)より民(たみ)の願(ねがひ)に任(まか)せて一人(ひとり)の囚人(めしうど)を釋(ゆるす)の例(れい)あり
  16. 時(とき)にバラバと云(いへ)る一人(ひとり)の名高(なだか)き囚人(めしうど)ありければ
  17.  ピラト民(たみ)の集(あつま)りしとき彼等(かれら)に曰(いひ)けるはバラバか又(また)はキリストと稱(とな)ふるイエスなる乎(か)なんぢら誰(たれ)を釋(ゆる)さんと欲(おも)ふや
  18. これ媢嫉(ねたみ)に由(より)てイエスを解(わた)したりと知(しれ)ばなり
  19.  方伯(つかさ)審判(さばき)の座(ざ)に坐(すわ)りたる時(とき)その妻(つま)いひ遣(つかは)しけるは此(この)義(ただしき)人(ひと)に爾(なんぢ)干(かかは)ること勿(なか)れ蓋(そは)われ今日(けふ)夢(ゆめ)の中(うち)に彼(かれ)につきて多(おほ)く憂(うれへ)たり
  20.  祭司(さいし)の長(をさ)長老(としより)たちバラバを釋(ゆる)しイエスを殺(ころ)さんことを求(ねがへ)と民(たみ)に唆(すす)む
  21.  方伯(つかさ)こたへて彼等(かれら)に曰(いひ)けるは二人(ふたり)のうち孰(いづれ)を我(わが)なんぢらに釋(ゆる)さんことを望(のぞ)むや彼等(かれら)バラバと答(こた)ふ
  22.  ピラト曰(いひ)けるは然(さら)ばキリストと稱(とな)ふるイエスに我(われ)なにを處(なす)べきか衆(みな)いふ十字架(じふじか)に釘(つけ)よと
  23.  方伯(つかさ)いひけるは彼(かれ)なにの惡事(あくじ)を行(なし)しや彼等(かれら)ますます喊叫(さけび)て十字架(じふじか)に釘(つけ)よと曰(いふ)
  24.  ピラトその言(こと)の益(えき)なくして唯(ただ)亂(らん)の起(おこら)んとするをしり水(みづ)を取(とり)て人々(ひとびと)の前(まへ)に手(て)をあらひ曰(いひ)けるは此(この)義(ただしき)者(もの)の血(ち)に我(われ)は罪(つみ)なし爾曹(なんぢら)みづから之(これ)に當(あた)れ
  25.  民(たみ)みな答(こたへ)て曰(いひ)けるは其(その)血(ち)は我儕(われら)と我儕(われら)の子孫(すゑ)に係(かかは)るべし
  26. 是(ここ)に於(おい)てバラバを彼等(かれら)に釋(ゆる)しイエスを鞭(むちう)ちて之(これ)を十字架(じふじか)に釘(つけ)ん爲(ため)に付(わた)したり
  27.  方伯(つかさ)の兵卒(へいそつ)イエスを携(たづさ)へ公廳(やくしよ)に至(いた)り全營(くみぢゆう)を其(その)もとに集(あつ)め
  28.  彼(かれ)の衣(ころも)を褫(はぎ)て絳色(あかいろ)の袍(うはぎ)を着(き)せ
  29.  棘(いばら)にて冕(かんむり)を編(あみ)その首(かうべ)に冠(かむら)しめ又(また)葦(よし)を右手(みぎのて)に持(もた)せ且(かつ)その前(まへ)に跪(ひざま)づき嘲弄(てうろう)して曰(いひ)けるはユダヤ人(びと)の王(わう)安(やす)かれ
  30.  また彼(かれ)に唾(つばき)し其(その)葦(よし)を取(とり)て其(その)首(かうべ)を撃(うて)り
  31.  嘲弄(てうろう)し畢(をは)りて其(その)袍(うはぎ)をはぎ故(もとの)衣(ころも)をきせ十字架(じふじか)に釘(つけ)んとて彼(かれ)を曳(ひき)ゆく
  32.  その出(いで)し時(とき)クレネ人(びと)のシモンといふ者(もの)に遇(あひ)ければ強(しひ)て之(これ)に其(その)十字架(じふじか)を負(おは)せたり
  33.  彼等(かれら)ゴルゴダ譯(とけ)ば即(すなは)ち髑髏(されかうべ)と云(いへ)る處(ところ)に來(きた)り
  34.  醋(す)に膽(い)を和(あは)せてイエスに飮(のま)せんと爲(し)たりしに甞(なめ)て飮(のむ)ことをせざりき
  35.  斯(かく)てイエスを十字架(じふじか)に釘(つけ)しのち鬮(くじ)を拈(とり)て其(その)衣(ころも)を分(わかつ)これ預言者(よげんしや)の言(ことば)に彼等(かれら)互(たがひ)に我(わ)が衣(ころも)を分(わけ)わが裏衣(したぎ)を鬮(くじ)にすと云(いひ)しに應(かな)へり
  36.  兵卒(へいそつ)ここに坐(ざ)してイエスを守(まも)れり
  37.  また罪標(すてふだ)に此(これ)はユダヤ人(びと)の王(わう)イエスなりと書(しる)して其(その)首(かうべ)の上(うへ)に置(おけ)り
  38.  其(その)とき二人(ふたり)の盜賊(ぬすびと)イエスと偕(とも)に一人(ひとり)は其(その)右(みぎ)一人(ひとり)は其(その)左(ひだり)に十字架(じふじか)に釘(つけ)らる
  39.  往來(ゆきき)の者(もの)イエスを詈(ののし)り首(かうべ)を搖(ふり)て曰(いひ)けるは
  40.  殿(みや)を毀(こぼ)ちて三日(みつか)に之(これ)を建(たつ)る者(もの)よ自己(みづから)を救(すく)へ爾(なんぢ)もし神(かみ)の子(こ)ならば十字架(じふじか)より下(おり)よ
  41.  祭司(さいし)の長(をさ)學者(がくしや)長老(としより)等(たち)も亦(また)おなじく嘲弄(てうろう)して曰(いひ)けるは
  42.  人(ひと)を救(すくひ)て己(おの)が身(み)を救(すくひ)あたはず若(もし)イスラエルの王(わう)たらば今(いま)十字架(じふじか)より下(くだ)るべし然(さら)ば我儕(われら)かれを信(しん)ぜん
  43.  彼(かれ)は神(かみ)に依(より)頼(たの)めり神(かみ)もし彼(かれ)を愛(いつく)しまば今(いま)救(すく)ふべし蓋(そは)かれ我(われ)は神(かみ)の子(こ)なりと云(いひ)し也(なり)
  44.  同(とも)に十字架(じふじか)に釘(つけ)られたる盜賊(ぬすびと)も同(おなじ)くイエスを詈(ののし)れり
  45.  晝(ひる)の十二時(じふにじ)より三時(さんじ)に至(いた)るまで其(その)地(ち)あまねく黒暗(くらやみ)となる
  46. 三時(さんじ)ごろイエス大聲(おほごゑ)にエリ、エリ、ラマサバクタニと呼(よばは)りぬ之(これ)を譯(とけ)ば吾(わが)神(かみ)わが神(かみ)なんぞ我(われ)を遺(すて)たまふ乎(や)と云(いへ)る也(なり)
  47.  旁(かたは)らに立(たて)たる者(もの)のうち或(ある)人(ひと)これを聞(きき)て彼(かれ)はエリヤを呼(よべ)るなりと曰(いふ)
  48.  其(その)中(うち)の一人(ひとり)直(ただち)に走(はし)り往(ゆき)て海絨(うみわた)をとり醋(す)を含(ふくま)せ之(これ)を葦(よし)につけてイエスに飮(のま)しむ
  49.  餘人(ほかのもの)曰(いひ)けるは俟(まて)エリヤ來(きた)りて彼(かれ)を救(すく)ふや否(いな)試(こころむ)べし
  50.  イエスまた大聲(おほごゑ)に呼(よばは)りて氣絶(いきたえ)たり
  51.  殿(みや)の幔(まく)上(うへ)より下(した)まで裂(さけ)て二(ふたつ)となり又(また)地(ち)ふるひ磐(いは)さけ
  52.  墓(はか)ひらけて既(すで)に寢(いね)たる聖徒(せいと)の身(み)おほく甦(よみが)へりイエスの甦(よみがへ)れる後(のち)
  53. 墓(はか)を出(いで)て聖城(みやこ)に入(いり)おほくの人(ひと)に現(あらは)れたり
  54.  百夫(ひやくにん)の長(かしら)と偕(とも)にイエスを守(まもり)たるもの地震(ぢしん)および其(その)有(あり)し事(こと)を見(み)て甚(いた)く懼(おそ)れ此(こ)は誠(まこと)に神(かみ)の子(こ)なりと曰(いへ)り
  55.  此(この)處(ところ)に遙(はるか)に望(のぞみ)ゐたる多(おほく)の婦(をんな)ありし彼等(かれら)はガリラヤよりイエスに從(したが)ひ事(つかへ)し者(もの)等(ども)なり
  56.  其(その)中(うち)に居(をり)し者(もの)はマグダラのマリアとヤコブ、ヨセの母(はは)なるマリアとゼベダイの子(こ)等(たち)の母(はは)となり
  57. 日(ひ)くれてイエスの弟子(でし)なるヨセフと云(いへ)るアリマタヤの富(とめる)人(ひと)きたりてピラトに往(ゆき)イエスの屍(しかばね)を請(こひ)しかば
  58.  ピラトその屍(しかばね)を付(わた)せと命(めい)ず
  59. ヨセフ屍(しかばね)を取(とり)て清(きよ)き枲布(ぬの)に裹(つつ)み
  60.  之(これ)を磐(いは)に鑿(ほり)たる己(おの)が新(あたら)しき墓(はか)におき大(おほい)なる石(いし)を墓(はか)の門(もん)に轉(まろば)して去(さる)
  61. マグダラのマリアと他(ほか)のマリアと墓(はか)に對(むかひ)て坐(ざ)し其處(そこ)に居(をれ)り
  62.  預備日(そなへび)の翌日(よくじつ)祭司(さいし)の長(をさ)とパリサイの人(ひと)等(たち)ピラトの所(ところ)に集(つどひ)來(きた)り曰(いひ)けるは
  63.  主(しゆ)よ我儕(われら)憶起(おもひいだ)せり彼(か)の僞者(いつはりもの)いきて在(あり)しとき三日(みつか)ののち甦(よみがへ)らんと言(いひ)し
  64.  是(この)故(ゆゑ)に命(めい)じて三日(みつか)に至(いたる)まで墓(はか)を固守(かため)しめよ恐(おそら)くは其(その)弟子(でし)夜(よる)きたりて之(これ)を竊(ぬす)み死(し)より甦(よみがへ)りたりと民(たみ)に言(いは)ん然(しから)ば後(のち)の惑(まどひ)は先(さき)よりも愈(いや)勝(まさ)るべし
  65.  ピラト彼等(かれら)に曰(いひ)けるは守兵(まもるもの)は爾曹(なんぢら)にあり往(ゆき)て意(おもひ)のままに固守(かため)しめよ
  66.  是(ここ)に於(おい)て彼等(かれら)ゆきて石(いし)に封印(ふういん)し守兵(まもるもの)をして墓(はか)を固守(かため)しめたり

第二十八章

  1.  安息日(あんそくにち)終(をはり)てのち七日(なぬか)の首(はじめ)の日(ひ)黎明(あけがた)にマグダラのマリア及(およ)び他(ほか)のマリアその墓(はか)を觀(み)んとて來(きた)りしに
  2.  大(おほい)なる地震(ぢしん)ありて主(しゆ)の使者(ししや)天(てん)より降(くだ)り墓(はか)の門(もん)より石(いし)を轉(まろば)し其(その)上(うへ)に坐(ざ)す
  3.  その容貌(かたち)は閃電(いなびかり)のごとく其(その)衣服(ころも)は雪(ゆき)のごとく白(しろ)し
  4.  守兵(まもるもの)かれを懼(おそれ)戰(をのの)き死(しに)たる者(もの)の如(ごと)くなりぬ
  5.  天使(つかひ)こたへて婦(をんな)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)おそるる勿(なか)れ我(われ)なんぢらが十字架(じふじか)に釘(つけ)られしイエスを尋(たづぬ)ることを知(しる)
  6.  彼(かれ)は此(ここ)に在(あら)ず其(その)言(いへ)る如(ごと)く甦(よみがへ)りたり爾曹(なんぢら)きたりて主(しゆ)の置(おか)れし處(ところ)を見(み)よ
  7.  且(かつ)ゆきて其(その)弟子(でし)に告(つげ)よ彼(かれ)は死(し)より甦(よみがへ)り爾曹(なんぢら)に先(さきだ)ちてガリラヤに往(ゆけ)り彼處(かしこ)に於(おい)て爾曹(なんぢら)かれを見(みる)べし我(われ)これを爾曹(なんぢら)に告(つぐ)
  8.  婦(をんな)懼(おそれ)ながらも甚(いた)く喜(よろこ)びて急(とく)墓(はか)をさり其(その)弟子(でし)に告(つげ)んと走(はし)り往(ゆけ)り
  9.  弟子(でし)に告(つげ)んとて往(ゆく)ときイエス彼等(かれら)に遇(あひ)て安(やす)かれと曰(いひ)給(たま)ひければ婦(をんな)すすみ其(その)足(あし)を抱(いだき)て拜(はい)しぬ
  10.  イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは懼(おそ)るる勿(なか)れ去(さり)て我(わ)が兄弟(きやうだい)にガリラヤに往(ゆけ)と告(つげ)よ彼處(かしこ)にて我(われ)を見(みる)べし
  11.  婦(をんな)の去(さり)しのち守兵(まもるもの)のうち或(ある)者(もの)ども城(みやこ)に至(いた)り凡(すべ)て有(あり)し事(こと)を祭司(さいし)の長(をさ)等(たち)に告(つげ)しかば
  12.  彼等(かれら)と長老(としより)あつまりて共(とも)に議(はかり)おほくの銀子(かね)を兵卒(へいそつ)に給(あたへ)て曰(いひ)けるは
  13.  爾曹(なんぢら)いへ我儕(われら)が寢(いね)たる時(とき)その弟子(でし)夜(よる)きたりて彼(かれ)を竊(ぬすめ)りと
  14.  此(この)事(こと)もし方伯(つかさ)に聞(きこゆ)るとも我儕(われら)かれに勸(すすめ)て爾曹(なんぢら)に憂慮(うれひ)なからしめん
  15.  かれら銀子(かね)を取(とり)て囑(いひふく)められたる如(ごとく)したりし是(ここ)に於(おい)て此(かく)の如(ごと)き話(はなし)今日(こんにち)に至(いた)るまでユダヤ人(びと)の中(うち)に傳播(いひひろめ)られたり
  16.  十一(じふいち)の弟子(でし)ガリラヤに往(ゆき)てイエスの彼等(かれら)に命(めい)じ給(たま)ふ所(ところ)の山(やま)に至(いた)り
  17.  イエスを見(み)て拜(はい)せり然(され)ど疑(うたが)へる者(もの)もありき
  18.  イエス進(すすみ)て彼等(かれら)に語(かたり)いひけるは天(てん)のうち地(ち)の上(うへ)の凡(すべて)の權(けん)を我(われ)に賜(たまは)れり
  19.  是(この)故(ゆゑ)に爾曹(なんぢら)ゆきて萬國(ばんこく)の民(たみ)にバプテスマを施(ほどこ)し之(これ)を父(ちち)と子(こ)と聖靈(せいれい)の名(な)に入(いれ)て弟子(でし)とし
  20. 且(かつ)わが凡(すべ)て爾曹(なんぢら)に命(めい)ぜし言(こと)を守(まも)れと彼等(かれら)に教(をしへ)よ夫(それ)われは世(よ)の末(をはり)まで常(つね)に爾曹(なんぢら)と偕(とも)に在(ある)なりアメン